ティラーソン国務長官「更迭報道」を巡る「混乱」
12/6(水) 12:00配信 新潮社 フォーサイト
【ワシントン発】 11月30日午前、ホワイトハウス近くにあるオフィスで勤務していたところ、突然衝撃的報道が駆け巡った。
レックス・ティラーソン国務長官を数週間以内に事実上更迭し、後任にはマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官を指名し、
また、CIA長官の後任にはトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州選出)の登用をホワイトハウスが検討中だと、複数の政府高官の情報により、米主要メディアが一斉に報じたのである。
 ティラーソン氏は、数カ月前から辞任が憶測されており、少なくとも1年務めるまでは国務長官を辞任しない方針を周囲や友人らに示唆しているとも以前から報じられていた。それだけに、今回の報道に接し、筆者は「やはり」という印象を受けざるを得なかった。
■大統領も本人も否定
 ところが翌12月1日、ドナルド・トランプ大統領は報道について、ティラーソン氏との間には特定の政策上の立場の違いがあることは認めつつも、近い将来更迭するという報道は「フェイクニース(fake news)」であると全面否定。
今後もティラーソン氏と協調して取り組んでいくとの見解をツイッターで明らかにした。
ティラーソン氏自身も、国務省にリビア国民統一政府のファーイズ・ムスタファ・アル=シラージュ首相を迎えた会談後の記者会見で、一連の報道について「馬鹿馬鹿しい(laughable)」と一蹴している。
ちなみにティラーソン氏は、12月4日の週からブリュッセル、ウィーン、パリの欧州歴訪中である。
■両者の軋轢
 トランプ大統領とティラーソン氏の関係については、大統領自身も認めているように、主要な外交政策を巡り立場の違いがあり、決して良好とは言えない状況にあると考えられる。
対北朝鮮政策、イラン核合意、気候変動対策、アラブ湾岸諸国内における対立を始めとして、両者の政策上の立場には乖離があることが今までにしばしば表面化してきた。
 具体例として、ティラーソン氏は緊迫が高まる北朝鮮情勢の膠着状態打開のため、関係国も巻き込んだ懸命の外交努力を展開していた中、トランプ大統領はツイッターで「時間の無駄(wasting the time)」と投稿した。
他方、ティラーソン氏もトランプ大統領を「間抜け(moron)」と非公式の場で批判していたと10月に報じられ、政策上の立場の乖離だけではなく、
信頼関係まで悪化していることが窺われた。
 さらに、国務省の再編に取り組むティラーソン氏にとって、同省の高官人事が未だ固まらないことも状況を厳しくしている。
ちなみにこの点については、国務省内の制裁監視関連の部局が政策立案局内に編入、統合される動きなどが出てきている。
■懸念される政権内バランスの崩壊
 大統領、国務長官両者とも更迭を否定はしているが、果してティラーソン氏が今後も国務長官を続けられるのかは疑問である。
 と同時に、更迭であれ辞任であれ、国務長官のポストからティラーソン氏が離れた場合、最も懸念されるのは、トランプ政権の外交・安全保障政策に関する関係閣僚や政府高官の微妙なバランスが崩れかねないことだ。
 ティラーソン氏は国務省高官人事の空白が続く中、ジョン・ケリー大統領首席補佐官やH.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ジェイムス・マティス国防長官との良好な関係を梃(てこ)にして、トランプ政権の外交を担ってきた。
実際、ティラーソン氏はホワイトハウスを頻繁に訪れ、トランプ大統領のみならずケリー、マクマスター両氏との協議を頻繁に図りつつ対応してきた経緯がある。
こうした従来までのホワイトハウス、国務省、国防総省の政府高官、閣僚の良好なバランスが、ティラーソン氏が閣外に去ることで大きく崩れることが懸念される。