■「超タカ派」のCIA長官
 ティラーソン氏が国務長官を辞任した場合の後任として名前が浮上したポンペオCIA長官は、超保守派として知られている。
外交では北朝鮮、イランなどに対して非常に厳しい姿勢を鮮明にしており、トランプ大統領がポンペオ氏を国務長官に指名した場合、トランプ外交の保守化は不可避であると考えられる。
 オバマ前政権が「P5+1(国連安保理常任理事国の米英仏中ロ5カ国と独)」とともにイラン政府と2015年7月に締結したイラン核合意にポンペオ氏は批判的立場を明確にしており、
次期CIA長官に指名される直前、自らのツイッターに、「このような世界最大のテロ支援国家との悲惨な合意を巻き返すことを楽しみにしている」と投稿している。
さらには、イラン核合意関連では、オバマ前政権がイラン政府との間で秘密の付属文書を取り交わしているのではないかと米議会で厳しく追求し続けたのが、下院議員であったポンペオ氏と、後任のCIA長官候補と報じられたコットン上院議員の2人である。
■大統領の「信頼」と「影響力」
 今回の一連の報道をトランプ大統領は否定しているが、ポンペオ氏はトランプ大統領に対して影響力を増大させており、今後も注視しなければならない人物であることには変わりはない。
その理由は、トランプ大統領に対して国際情勢などについて行われる毎日の「デイリー・インテリジェンス・ブリーフィング」を通じ、大統領と多くの時間を共有しているためだ。
とりわけ、その忠誠心からも大統領の信頼が厚いと見られている。
 日本ではあまり報じられることがないが、ポンペオ氏の経歴に触れておこう。
 CIA長官に指名されるまでは、カンザス州第4区選出の下院議員であった。
オバマ前大統領による連邦政府の歳出拡大路線や2010年3月に成立した医療保険制度改革関連法(通称オバマケア)に猛反発した保守系有権者の草の根運動「ティーパーティー(茶会党)運動」の追い風を受け、2010年中間選挙で当選。
CIA長官に就任するまで3期6年在任していた。
 茶会党支持勢力の支援を選挙キャンペーン中から受けていたこともあり、下院議員時代には「大きな政府」に反対。
連邦政府の歳出削減、減税の推進といった「小さな政府」の実現を目指す財政保守派の共和党下院議員により構成された議員連盟「フリーダム・コーカス」の創設者の1人でもある。
2014会計年度予算案にオバマケア関連予算が反映されていたため、2013年秋、共和党主導の下院が同予算案に反対して発生した連邦政府の一部閉鎖をポンペオ氏は支持している。
 こうした経歴から、日々のブリーフィングを通じ、トランプ大統領に対して外交・安全保障政策のみならず、オバマケア見直し法案などの内政案件でも大きな影響力を持っていると見られている。
■国務省内での孤立
 ティラーソン氏の更迭は否定されたが、自らが要請し、同省再編を任せていたマリズ・ビームズ顧問やコミュニケーション担当のR.C.ハモンド顧問は、すでに相次いで国務省を去っており、ティラーソン氏の同省での孤立を印象付けている。
 41年間勤務したエクソン・モービル会長兼CEOから国務長官に就任したティラーソン氏が、更迭でも辞任でも、仮に1年も経過せず離任した場合、政権交代を伴わない離任としては、過去約120年間で最短の在任期間の国務長官となる。
 トランプ大統領に対するポンペオ氏の影響力が益々増大しつつあるだけに、今後もティラーソン氏の去就を注視する必要がある。(足立 正彦)