エクソンCEOとしてのティラーソン氏は、同社がエネルギー資源の豊かな地域で活動し高い利益を上げるよう、株主に対する受託者責任を負っていた。彼の責任は、海外において米国の外交政策上の目標を支援・推進することではなかった。
だが、国務長官としての承認を受ければ、彼にとっての優先順位もそれに応じて変わっていくだろう。
エクソンのライバルであるトタルやシェル、BPといったグローバルなエネルギー企業は、いずれもロシアに本格的に進出している。
その理由は、冷戦終結後のロシアが重要なエネルギー輸出国となり、最近になって米国にその座を譲るまでは、石油・ガスを合わせた埋蔵量の点で世界トップだったからである。
エクソンがロシアでのエネルギー開発における重要なプレーヤーでなかったとしたら、それはいわば、グローバルな金融機関がニューヨークやロンドンに進出していないようなものだ。これでは真の意味で「グローバル」を名乗るわけにはいくまい。
ティラーソン氏は、エクソンの利益を最優先にする手強い交渉相手との評判を得ている。たとえばベネズエラでは、チャベス氏がエクソンの租借権を没収しようと試みたところ、国際的な仲裁機関に提訴して勝利を収めた。
他のほとんどの企業は訴訟の手間を惜しんで、金銭的な補償と引き換えに妥協していた。
彼はロシアに対する制裁に反対していたが(米国企業のCEOの多くは収益に影響が出るとして反対していた)、エクソンは制裁を遵守している。
実のところ、ティラーソン氏の公的な発言から判断する限り、彼は外交においては現実主義だと思われる。
共和党員としては、ラムズフェルド元国防長官やチェイニー前副大統領というよりは、
ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領や同元大統領の政権などで国家安全保障担当大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフト氏のタイプだ。
ティラーソン氏は企業幹部として貿易自由化を推進しており、米国企業が欧州・アジアの競合他社に対して不利となるような制裁には反対してきた。
エクソン在籍中のティラーソン氏を見る限り、彼が米国の外交政策を主導していく際に、
エクソンを世界有数のエネルギー企業にしていく過程で見せたのと同じ厳しさを備えた情熱を発揮しないと考える材料はほとんどない。
実際には、トランプ政権の国家安全保障チームにマイケル・フリン氏やジェームス・マティス氏といった軍事力志向の退役将軍たちが控えているだけに、
ティラーソン氏はその「よろいを隠す衣」ということになる可能性もあるが。
トランプ氏は、連邦政府による国内政策・外交政策を根本的に変えるという綱領を掲げて大統領選を戦い、勝利を収めた。トランプ氏は企業幹部を閣僚に加えたいと発言していた。
彼らの方が、実社会での経験に乏しい政治家であった前任者たちよりも「勝ち方」を知っており、「有利な」取引を結ぶ術を心得ているから、というのがその理由だった。
ティラーソン氏の指名によって、トランプ氏はその目標を達成したことになるだろう。
*筆者は元エネルギー企業幹部で、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのボードメンバーを務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。
このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、
また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。
このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、
コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。