14年年央の原油価格の急落は、リーマンショック後の“コモディティバブル”崩壊のサインと考えられた。
リーマンショック後、中国の財政出動は世界的な資源開発ブームを引き起こした。そのなかで米国は、“シェールガス革命”の熱気に浸った。
この結果、世界的に供給圧力が高まり、原油をはじめとする商品相場が下落した。
 この後、16年11月の大統領選挙まで米国株式市場は上値の重い展開となった。この間、FRBは慎重に金融政策を運営することで株式市場の下落を防いだといえる。
大統領選挙後はトランプ政権のインフラ投資などへの期待が鉄鋼などの株価を押し上げ、年初来ではハイテク企業の成長期待がバブルを膨張させてきたと考えられる。
注意が必要な秋口の米国株式市場の動向

 
 今後の展開を考えたとき、米国の金融政策はバブル崩壊の一因になるかもしれない。早ければ9月にもFRBはバランスシートの縮小を開始し、3回の量的緩和策を通して買い入れてきた債券の保有額を減らす可能性が高い。
これは、中央銀行がバブルの膨張を抑え、金融緩和の余地を確保しようとし始めていることを示している。
 米国の企業業績の拡大が続くか否かも不透明だ。7月28日までに発表された4-6月期の企業決算を見ると、S&P500を構成する企業は平均して10.8%の増益を記録した。7-9月期以降の業績予想はこれまでよりも慎重なものが多い。
特に、ハイテク企業の増益が達成できるか否かは重要だ。もし、アマゾンが事業拡大のコストを吸収できないことが明らかとなれば、ハイテク銘柄への弱気な見方が増える可能性もある。
 米国の経済指標を見る限り、今すぐに相場が変調をきたす可能性は低そうだ。それでも、FRBの金融引き締めがカネ余りを吸収し始めれば、資金の調達コストは高まるだろう。それは、株価の上昇を通して先行きへの期待を高めてきた投機を抑制するはずだ。
 米国の上院ではオバマケアの改廃と代替に関する法案が否決され、トランプ政権の政策運営は行き詰まっている。政権内部での側近の対立も浮き彫りとなるなか、スムーズな政策立案と議会承認を期待するのは難しい。
 米国では、雇用の改善にもかかわらず賃金が増えていない。景気回復の持続性を高めるためには、経済対策が必要との見方は増えやすくなっている。政権の混乱から経済対策の実施が見込みづらいなか、さらなる成長を期待するのは徐々に難しくなるのではないか。
 1990年代以降、米国は株式(IT)バブル(2000年代初頭まで)、住宅バブル(07年夏場まで)、コモディティバブル(14年半ばまで)を乗り継いできた。現在、いずれの資産価格も割高な水準にあると考えられる。
バブルの乗り継ぎは難しいだろう。秋口の金融引き締めなどを境に株価が下落し、徐々に世界経済の景況感が悪化するシナリオは排除すべきではない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)