<東京五輪>輸送整備、黄信号 豊洲工事の中止・不調次々
12/11(月) 21:22配信 毎日新聞
 東京都の小池百合子知事が都政改革の目玉として試行する入札制度改革が原因で、豊洲市場(江東区)の土壌汚染対策工事の入札中止や不調が相次いでいる。
来年10月中旬に決まった豊洲への移転が進まなければ、2020年東京五輪・パラリンピックの輸送拠点に活用予定の築地市場(中央区)の解体も遅れ、東京大会に整備が間に合わない恐れがある。
都幹部は「ただでさえぎりぎりのスケジュールで、移転が遅れれば大きな支障が出る」と懸念する。

 入札制度改革は、小池知事が豊洲や東京大会の会場整備費を「高価格体質で透明性に欠ける」と問題視したことが発端となった。都は予定価格を事前公表するとともに、1者のみの入札も認めていた。
小池知事は、この制度を「談合の温床になり、契約価格もつり上げられる」と指摘。6月から予定価格を入札後に公表し、1者入札なら中止する新制度試行に踏み切った。

 その結果、全応札者が予定価格を上回るなどして入札が成立しない不調が10月末時点の契約中19%に達し、16年度の約2倍となった。豊洲の計9件の工事でも中止や不調が続出。
11日に2度目の入札で4件が成立したが、3件は不成立のままだ。

 元都幹部や業界関係者によると、そもそも都の予定価格は低く設定されている。13年の豊洲3棟の整備工事では、共同企業体(JV)が落札の意思を示しながらも「採算が合わない」と辞退し、不調となった。
都は3棟の整備費を当初の1.6倍の1035億円に引き上げた上で、JV側に入札を求め、成立させたという。

 豊洲の工事が進まない現状に、6日の都議会代表質問では、公明の橘正剛氏が「都政全体の停滞という不安を引き起こしている。入札制度改革は抜本的に見直すべきだ」と厳しく批判した。
都は一部を随意契約にすることを検討しているが、小池知事は「改革が始まったばかりで、さらに検証を進めていくことが重要だ」と制度見直しについて言及を避けた。

 不調に加え、移転を推進してきた江東区の山崎孝明区長も受け入れに難色を示し始めた。
小池知事が築地を再開発するとの方針を打ち出したことで、豊洲に観光拠点「千客万来施設」を整備する予定だった万葉倶楽部(神奈川県小田原市)が撤退を検討していることが明らかになった。
同社担当者は「築地に新たに競合施設ができれば採算が取れない」と話し、山崎区長も「施設が整備されなければ受け入れを再考せざるを得ない」と突き放す。

 都は築地の解体に16カ月、駐車場や給油所などの輸送拠点の整備に約1年の工期を見込む。解体と整備を同時に進め、東京大会直前の20年春の完成を目指す。
スケジュールは既にぎりぎりで、豊洲の工事の落札者が決まらなければ、築地跡地の地上に整備して都心と選手村を結ぶ「環状2号線」も完成しない。

 都幹部は「築地移転が遅れることも考え、東京湾岸部の都有地を輸送拠点用に押さえたが、選手村と競技場の往来を考えると、築地跡地に環状2号線ができなければ都内は大会中に大渋滞するのではないか」と頭を抱える。【森健太郎、柳澤一男】