オトナの教養 週末の一冊
ラップ、暴力、人種差別……川崎に生きる若者たち
『ルポ 川崎』磯部涼氏インタビュー
本多カツヒロ (ライター)
ttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/12739

――本書を読んでいると、過酷な生活環境だけではなく、日常的に小学生からタバコを、中学生くらいでお酒を飲んでいたり
とびっくりする証言が多いですね。

磯部:川崎区臨海部で多くの不良少年や元・不良少年に取材をして印象的だったのは、「大人」になるのが早いということ
でした。例えば、ある不良少年たちは中学生になった途端、先輩からカンパと称した上納金を収めるように強いられる。
それだけだとよく聞く話のようにも思えますが、彼らの場合、取り立てが強烈で、仕方がなくひったくりや強盗で資金を
賄うようになります。罪を重ね、一斉逮捕されたのはまだ中学三年生の時でした。

 あるいは、いわゆる中卒が多いことも考えさせられました。定時制や通信制の高校へ進学する子もいますが、大体、数カ月
で辞めてしまう。もちろん、なかにはそういった環境から抜け出したくて進学校を目指す子どももいます。例えば、この本にも
登場するラッパーのFUNIさん。彼は臨海部の桜本という、もともとは在日コリアンの集住地域だった場所で生まれ育ち、
6歳の時に大師町へ引っ越します。桜本とは1キロ程しか離れていませんが、彼の言葉を借りると「プールがガクンと深くなる
みたいに疎外感が強くなった」。学校で在日コリアンは彼しかいなかったのです。さらに、中学を卒業して北部の進学校へ
越境するようになると、友人たちが勉強や部活に専念していて驚いたと言います。彼の実家は潰れそうな町工場を何とか営み、
周りはそこにシンナーの一斗缶を貰いにくるような不良ばかりだったため、その時、自分が育った環境は特殊だったんだと
改めて知ったと語ってくれました。

 また、先程の不良少年たちのひとりは、中3で2度目の逮捕、医療少年院に送られた際、カウンセラーから「本当に偏った
世界で生きてきたんだね。おかしいということに早く気づいたほうがいい。洗脳されてるのに近い状態だ」と言われたそうです。

――一部の子どもたちにとって、職人か暴力団員かという少ない選択肢しかないわけですね。その他の選択肢を示せる
ロールモデルとなるような大人がいないのでしょうか?

磯部:この本の感想として、「過酷な環境の中でも真面目に生きている子どもだっているじゃないか」という意見もあります。
確かにその通りです。対して、件の先輩から上納金を取り立てられていた元・不良少年たちは「まともな大人と話す機会が
なかったんで。川崎の大人に相談しても、『やっちゃえばいいじゃん』みたいなことしか言わないから」「昔は大人が嫌いでした
もん。先生に相談しても無視だし。警察に被害届出しに行ったら、その後、ヤクザに絡まれて。『お前、うたった(密告した)ろ?
そこ(警察と暴力団)つながってねぇわけねぇじゃん』って」と振り返ります。