『菊(九州・久留米18師団)』の将兵が大原生林の樹海から辛うじて脱出した直後そこにみたのは素晴らしい装備をもちながらも戦闘意欲に欠けた集団の姿であった。
マラリアにやられたから入院させてくれとか足にマメができて歩けないとか泣き言をいって全線へ出ようとしない(関西の)兵隊たちである。
『菊』の将兵は怒髪天を衝く思いだった。これだけの武器弾薬があるならなぜ俺たちに支給してくれなかったのだ。兵糧さえ与えてくれたら勝てたのだ。歯ぎしり、無念の涙をのんだフーコンの戦いであったのに…
 どうせ戦いに負ければ全部敵の手に渡ってしまう。それなら俺たちが分捕ってもう一度戦ってやる。
兵隊たちはそう言いあって次々に闇の中に飛び出していくのだ。

『安(京都53師団)』はモウガンまで行軍してくる間に過半数の兵が落伍していたという。同じ日本人、同じ兵隊でありながらなぜこうも違うものかと精神力の差をまざまざ見せつけられた気がしてならなかった。
(光人社『菊と龍』P69~72,130)