慰安婦像問題に続いて、日韓外交の焦点となりそうなのが、「徴用工像」である。ソウルの日本大使館前への設置計画が取り沙汰され、両国の外交関係者に緊張を走らせている。ジャーナリスト・竹中明洋氏が当事者たちに話を訊いた。

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 「大統領選挙で我々の団体は徹底的に文在寅氏を支持しました。新政権はきっと我々のために積極的に動いてくれるでしょう」

 ソウル市内の事務所で、自信あり気に述べるのは、日本の植民地時代に強制徴用され日本企業で働かされたとする労働者ら、つまり日本側で言うところの徴用工やその遺族らがつくる団体「対日抗争期強制動員被害者連合会(以下、連合会)」の張徳煥事務総長だ。

 連合会は、大統領選のさなかの4月28日に韓国の国会内で記者会見を開き、文在寅氏への支持を表明するとともに、8月の光復節に向けてこんな計画を明らかにした。

 「ソウルの日本大使館前と、釜山の日本総領事館前、そして光州駅前の3か所に強制徴用された労働者の像を設置する」

 徴用工像をめぐっては、本誌・SAPIOの5月号で報じたとおり、韓国の労働組合が中心となりソウルの龍山駅前などに設置しようという動きが進む。それと並行して、この団体も設置を目指すという。

 本誌が報じた労働組合の動きと連携をしているのかと問うと、張氏はなぜか怒気を含んだ調子でこう話す。

 「彼らは、被害の当事者である我々の団体に何の相談もせずに、龍山駅前に設置すると言っています。なんらかの政治的な思惑のための動きなのでしょう。電話で抗議しましたが、彼らとは一切協力するつもりはありません」

 徴用工像の設置をめぐり主導権争いのようなものがあるのだろうか。真相究明と賠償を求める労働組合と目的も異なる。

 連合会が像の設置を目指すのは、強制動員されたとする元徴用工たちへの未払い賃金の支払いに応じるよう日本側に圧力をかけるためだという。

 連合会では、これまでにも元徴用工やその遺族による日本企業を相手取った訴訟を支援する活動をしてきた。一昨年の4月には連合会の会員による1004人もの大原告団を組織し、横浜ゴムや三井造船など日本企業69社を相手取った集団訴訟をソウル中央地裁に提訴している。

 「我々は強制徴用に対する補償金や慰労金などを寄越せと言っているのではない。未払い賃金を受け取りたいと言っているだけです。

 元労働者の中には、契約が終われば全額払うと約束されて日本で働きながら、賃金の20%しか受け取れなかった人もいます。残額の受け取りは終戦の混乱でうやむやになってしまいました」

 確かに終戦の混乱の中で賃金の未払いが発生したケースが少なからずあったとされる。

 だが、1965年の日韓国交正常化の際の請求権協定で、全ての補償は韓国政府が一括して受け取り、個人補償は韓国政府が代わって行うことで日韓双方が合意しており、補償問題は「完全かつ最終的に解決」したとされた。国際法上は、日本企業が支払いに応じる根拠はない。

 だが、連合会では協定を「被害者である元労働者らを苦しめるだけの屈辱的なものだ」として認めない。

 連合会が徴用工像の設置と並んで力を入れているのが、徴用工への未払い賃金の支払いに応じようとしない日本の「戦犯企業」のうち韓国国内に拠点を持つ企業へのデモ活動だ。昨年は、5月と6月の2回にわたり慶尚北道にある日本の化学メーカーの工場前に数百人が集まりデモを行った。

 デモの様子を写した写真を見ると、安倍晋三首相をかたどった人形の首に縄が括りつけられたり、日本兵に扮した人物らに手錠がかけられたりするパフォーマンスが行われたようだ。

 今年も6月や7月にソウル市内にある日本企業の現地法人前でデモを予定しているといい、圧力を緩めるつもりはないようだ。連合会の活動によって日韓関係が悪化することにつながらないか。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170620/soc1706200028-n1.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170620/soc1706200028-n2.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170620/soc1706200028-n3.html

>>2以降に続く)