北方領土での日露共同経済活動の実現に向けて、日本から官民で構成する調査団(団長・長谷川栄一首相補佐官)が5月末、北方領土を事実上管轄しているロシア極東のサハリン州を訪問した。

 長谷川氏と会談したコジェミャコ州知事は水産、農業、観光と次々に日本と協力したい分野を挙げ、共同経済活動を歓迎する意向を示した。

 しかし、日本側が事前にモスクワのロシア外務省に提示していた共同経済活動の事業案はサハリン州政府に伝わっておらず、消極的なモスクワとの温度差を印象付けた。

 「サハリンで日本の技術を導入すれば、日本にもサハリンにもいい結果が出てくる」

 コジェミャコ氏は長谷川氏との会談の冒頭、こう強調して日本の技術欲しさを隠そうとしなかった。

 コジェミャコ氏の切実な思いは、州政府のトップが語らずとも、中心都市のユジノサハリンスクの街並みを目にすればすぐに分かる。

 市街地を除けば、主要幹線道路以外は舗装されていない道が多く、街中の歩道も所々で地盤沈下があったように陥没していた。日本の投資を呼び込み、インフラ整備を含めた地域経済の活性化を狙うサハリン州の思いはひしひしと感じられた。

 日本政府関係者が会談後「コジェミャコ氏は(共同経済活動に)最大限の支持を表明した」と語ったことからも、州政府の意欲の強さがうかがえる。

 日本側にとっては、こうした州政府トップの前のめりの発言を引き出す狙いがあった。

 昨年12月に山口県長門市で開かれた安倍晋三首相とプーチン露大統領の首脳会談で、共同経済活動を実施することに双方は合意したが、その後の露側との交渉は思うように進んでいない。

 官民調査団の派遣は本来、4月の日露首脳会談で合意したように、5月中に実施すべきものだった。しかし、島内の視察ルートなどをめぐって露側が難色を示し、5月中の開催が困難になったため、調査団のサハリン州への訪問という形で手を打った。

 日露交渉筋は「ロシア外務省も国内の調整が大変なんだろうが、話が全然進まない。モスクワが日程を動かそうとしてきたときに、知事が『こっちだって困る』と言ってくれた方がいい」と会談の狙いを説明した。

 モスクワの消極姿勢は州知事との会談の中でも明らかになった。日露両政府は3月、次官級協議を開き、双方が考える具体的な事業案を提示し合った。

 そのときの露側の事業案はサハリン州政府の考えたものがほとんどだったが、日本側の事業案をコジェミャコ氏は今回の会談当日までモスクワから知らされていなかった。

 交渉筋は「そういうことも想定していたから、日本が提示した資料も持参していた。それとなく見せてみたら、やっぱり知らなかった」と話す。

 6月27日から1カ月遅れで官民の現地調査団が北方領土の視察に入った。今後も調査団の視察は複数回行われる予定で、9月上旬の日露首脳会談までに日本政府は具体的な事業の選定を終えたい考えだ。

 しかし、露側がどれだけ歩み寄ってくるかは見通せず、我慢の交渉が続く。7月にドイツで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議の際に予定されている日露首脳会談で両国のトップがどのような方針を打ち出せるかにも、日露交渉の行方は左右されそうだ。

(政治部 大橋拓史)

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コジェミャコ・サハリン州知事(左列の奥から3人目)は日露共同経済活動を歓迎した=5月31日、ユジノサハリンスク
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コジェミャコ・サハリン州知事(右)と会談した長谷川栄一首相補佐官(左)=5月31日、ユジノサハリンスク
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露ユジノサハリンスクの市街地は夜は人通りもまばらだった=5月30日
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閑散とした露ユジノサハリンスクの市街地
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