安倍晋三首相が5月3日に憲法改正の具体的構想を述べてから、野党や一部メディアによる安倍内閣や自民党への批判が急激に強まった。政策批判ではなく、「おごっている」「国民をバカにしている」との印象を国民に植え付けるものだ。それが成功しつつある中で東京都議選を迎えた。(夕刊フジ)

 自民党は23議席と大惨敗し、小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」は当選後の追加公認を含めると55議席と大躍進した。冷静に見れば、これは、かつて大阪府議選で「大阪維新の会」が大躍進して、自民党が大敗したのと同じ現象だ。

 民進党の議席減や、かねて朝鮮総連とのつながりが指摘されていた自民党都議らの引退・落選と相まって、全体としては保守勢力が都議会の大半を占めたことを意味する。憲法観でいえば、都民ファーストの会は幹部を含めて大半が憲法改正を志向している。地方議会とはいえ、改憲派の大躍進と理解すべきだ。

 しかし、そのような見方を、野党や一部メディアは採らなかった。自民党の惨敗のみに目を向け、「安倍首相が党内で求心力を失う」「憲法改正のスケジュールが狂う」と、都議選の結果を憲法改正に結びつけて、首相の唱える憲法改正は厳しくなったとした。

朝日新聞は都議選の翌日(7月3日)朝刊で早速、「首相の求心力低下」との大見出しの下で、「慎重論が広がりそう」「練り直しが必要」と書いている。

 安倍首相の改憲の提案は9条の1項、2項を維持しつつ、自衛隊を憲法に位置づける条項を設けるという、実に控えめな内容だ。それさえ許さぬとの思いの背景には何があるのか。

 首相は自衛隊を日陰者から憲法に根拠のある存在にしようとしている。憲法に従った権力行使という立憲主義にもかなっている。それにも反対ということは自衛隊を日陰者の存在にし続けておくことを意味する。

 憲法学者の中には「自衛隊は永久に日陰者扱いされなければならない」と公言する者もいる。日陰者扱いされることで権力行使が抑制的になるという理由だ。彼らは自衛隊は小さいほどよく、できればない方がよいと考えている。

 北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発に成功した。中国は南シナ海を制覇しつつある。次は東シナ海とばかりに、沖縄県・尖閣諸島周辺に毎日のように公船を派遣して様子をうかがっている。

 このような安全保障環境の激変を受けて、本来であれば、核武装の是非を含めて本格的な防衛論議が起きなければならない。「改憲潰し」は誰の利益になるかだけは、はっきりしている。 =おわり

 ■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士課程中退。専攻は憲法学、思想史、国家論、人権論。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。教育再生実行会議委員、法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長など。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)、『公教育再生』(PHP研究所)など多数。


http://www.sankei.com/politics/news/170728/plt1707280016-n1.html
2017.7.28 11:00
http://i.imgur.com/GtLeAWe.jpg
尖閣諸島周辺で領海侵犯した中国艦船(中央)と、警戒に当たる海上保安庁の巡視船など。護憲派は、厳しい現実を理解しているのか(仲間均・石垣市議提供)