北朝鮮の相次ぐ大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を受けて、国際社会は北朝鮮に対する制裁強化など強硬策を主張する日米と、対話を主張する中ロに割れ、有効な手立てが取れないでいる。その狭間で揺れているのが韓国である。

北朝鮮との対話路線を前面に出していた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、南北の軍事対話などを提案したが、北朝鮮に無視されたばかりか、ミサイル発射という「回答」を突き付けられメンツを潰されてしまった。

あわてて高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の追加配備を受け入れたり、米軍の戦略爆撃機B1Bとの軍事訓練を実施するなど強硬策を打ち出した。

北朝鮮の核・ミサイル開発に対して日米韓3カ国の結束は不可欠であり、韓国政府のこうした対応の変化は歓迎すべきことであるが、同じタイミングで日韓関係を壊しかねない動きが韓国内で起きている。

日韓合意を"検証"する韓国のタスクフォース

北朝鮮のミサイル発射を受け、安倍晋三首相と米国のドナルド・トランプ大統領が電話会談をし、国連安保理開催をめぐって米国と中国がさや当てをしていた7月31日、韓国の外交部長官のもとに作られたある会合がスタートした。

2015年12月の従軍慰安婦問題に関する日韓両国政府の合意についての交渉経過などを検証する「タスクフォース」である。

「慰安婦合意」は長年の懸案に一区切りつけたものだとして日本では高く評価されているが、韓国内では正反対で、日本政府の公式謝罪を求める韓国国民や元慰安婦の気持ちを無視したものだと極めて評判が悪い。

今年の韓国大統領選では文在寅大統領はじめ主要候補者が全員、「合意の破棄と再交渉」を公約に掲げていたほどだ。

さすがに当選後、文大統領は合意破棄を口にすることはないが、日本政府には繰り返し「韓国民の大多数が情緒的に受け入れられていないのが現実」という方針を伝えている。つまり、文政権としては、「合意」はそのまま認めるわけにはいかないということだ。

そして、「破棄」や「再交渉」の代わりにまず打ち出したのが「検証のためのタスクフォース」だった。韓国内では「日本政府の10億円の提供と少女像の撤去が取引されたのではないか」という秘密合意を疑う声が強い。

ジャーナリストら民間の専門家を中心に構成されるタスクフォースは、合意に関する外交文書のチェック、交渉に当たった韓国側当事者からのヒアリングを行って、年内に検証結果を公表する予定だという。

検証結果がどうなるか今から見通すことはできないが、合意に対して否定的な立場から作業が進められるわけで、積極的な評価を期待することはできない。したがって、内容によっては外交問題に発展する可能性がある。

タスクフォース以外にも深刻な問題が起きている。日韓合意に基づき創設された「和解・癒やし財団」が解体の危機に直面しているのだ。昨年7月に韓国政府が設立したこの財団は日本政府が拠出した10億円を元慰安婦やその遺族に現金を支給する活動を続けてきた。

ところがこの財団のトップである金兌玄(キム・テヒョン)理事長が7月23日、突然、辞意を表明したのである。財団に対する韓国内の批判が強く、事実上、活動ができなくなっていることが背景にある。

元慰安婦らに支給する資金は日本政府からの拠出金だが、財団の運営に必要な費用は韓国政府が負担することになっていた。

ところが韓国の国会は昨年末、「韓国政府がおカネを出したのでは、国民の税金で日本を助けることになる」として、政府予算のうち財団の経費部分を削除して議決してしまった。財団の職員や理事らは資金のない状態での活動を強いられていた。

さらに文大統領就任とともに任命された財団を監督する立場の女性家族部は財団に派遣していた職員を引き上げてしまったばかりか、女性家族部に財団の活動についての「点検班」を作り事業を全面的に再検討する方針を打ち出した。

このまま進むと財団は解散される可能性が高いといわれている。その場合は日本が拠出した10億円の処理もさることながら、日韓合意が実質的に反故になってしまいかねない。

http://toyokeizai.net/articles/-/182829

>>2以降に続く)