米国に亡命した北朝鮮の高位幹部が、米CNN放送のインタビューに答えた。この幹部によると、金正恩党委員長は祖父・金日成と父・金正日を凌ぐ残虐な指導者だという。

正恩氏の車を追い越しただけで

2014年10月に韓国に亡命し、2016年3月に米国に渡った李正浩(リ・ジョンホ)氏(59)は、脱北するまでは朝鮮労働党39号室の高位幹部として、金正恩氏の秘密資金、いわゆる裏金を造成するための外貨稼ぎに取り組んでいた。

今年6月には、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューで、金正恩氏が幹部や側近たち、そして幼い子供を含む家族ら数百人を高射銃で無残に処刑し、数千人を粛清したと証言していた。

李氏は、金正恩時代に入ってから繰り返される無慈悲な粛清と残虐な処刑について、金日成主席と金正日総書記の時代にもなかった「前代未聞の虐殺蛮行」と厳しく非難。これこそが亡命の理由だと語った。

さらに、韓国メディアによると、李氏は韓国の北朝鮮専門家と会った席で、「金正恩が自分の女性秘書らを、張成沢と関わったという容疑で処刑したのを目撃した」と語っているという。

金正恩氏は、高級幹部でさえも些細な理由で粛清・処刑することで知られている。

過去には、金正恩氏が自ら運転していたベンツを追い越した朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の師団長の姿が急に消えたという話もある。

金正恩氏が叔父・張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑したのが2013年の12月で、李氏が亡命したのが2014年の10月。李氏は、金正恩氏の粛清と処刑による恐怖政治が激化する過程をかなり権力層に近い立場で見聞きしていたのだろう。

もともと肥満体形だった金正恩は、2013年夏頃から冬にかけてさらに太った。

そして、同年12月の張氏の処刑を皮切りに、北朝鮮史上希にみる恐怖政治を加速させる。つまり、暴君としての姿を現すターニングポイントの時期に、急激に太っているのだ。

叔父さえも処刑する恐怖政治を激化させる中で、猜疑心やストレス、プレッシャーに悩まされたことが極度の肥満をもたらした可能性は充分にある。

李氏は、「金正恩は窮地に追い込まれれば何をしでかすか知れない」としながら、仮に北朝鮮と米韓の間で戦争が勃発した場合には、韓国に対して核・化学兵器を使用するシナリオを持っていると語った。

さらに、「外部からの衝撃」がなければ、金正恩体制は今後も数十年間、維持されると予想した。一方、対北朝鮮制裁が強化され、主な資金源である鉱物の輸出が減少すると、金正恩体制が動揺する可能性もあるとも語った。

国連安全保障理事会は近く、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した北朝鮮に対して、北朝鮮産の石炭や海産物などを完全禁輸とする制裁強化決議案を採決する。決議が完全に履行されれば、北朝鮮の輸出による年間収入30億ドル(約3300億円)のうち、3分の1が消えるという。

ただし、中国とロシアが決議案に同意するかどうかはわからない。仮に同意したとしても、これまでの事例からすると制裁が完全に履行されるかどうかは不透明で、国連決議だけでは李氏が指摘する「外部からの衝撃」としては不十分だろう。

核・ミサイル問題だけでなく、金正恩氏の前代未聞の虐殺蛮行をやめさせるためにも、金正恩体制を動揺させるより踏み込んだ圧力と手段を講じるべきだ。

http://dailynk.jp/archives/93468