2度の新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射で北朝鮮は祝賀、祝宴に明け暮れたが、ドナルド・トランプ米大統領(71)は軍事的選択肢を示唆し、“危険なチキンレース”再来の兆しだ。

 ささやかれるのは“8月危機説”で、21日から韓国で始まる米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(UFG)への北の挑発が懸念されている。北朝鮮は昨年の同演習中に潜水艦発射ミサイル(SLBM)を発射して成功させ、奇襲の能力を誇示した。

 今月に入って北朝鮮の潜水艦が「特異な動きをしている」と米メディアが報じている。UFGに米原潜が加わるとの見方もある。

北朝鮮が恐れる演習の中身

 UFGは野外演習ではなく指揮所演習で、シミュレーションが主体だが、核戦争を想定した対北核施設・基地攻撃の演習となる。

 特に今年は、北朝鮮の挑発に備えるため、米軍がUFGに合わせ米原子力空母2隻を海上に展開させる予定で、韓国メディアによると、原子力潜水艦の出動も米韓軍で検討中とされる。

 訓練は宇宙空間の対応も含み、GPS(全地球測位システム)攪乱への対応も実施される。北朝鮮は最近、GPS攪乱電波をたびたび発信、兵器システムへの影響が懸念されているためで、発信源撃破の訓練が加わる。

 UFGでは昨夏、北朝鮮軍が警戒最高レベルの「特別警戒勤務1号」を発令した。北朝鮮当局はあらゆる媒体を使って「公然たる宣戦布告だ」などとUFGを非難、軍総参謀部や外務省が反発する声明を出した。

 また朝鮮人民軍板門店代表部は“UFG白書”を発表し、「これほど規模が膨大で戦争遂行方式が暴悪非道で実戦的な核戦争演習は見当たらない」と論評、「わずかにでも侵略の兆候があれば、容赦なくわれわれ式の核先制打撃を浴びせる」と威嚇した。

 北朝鮮は米韓合同軍事演習の度に極度の緊張を強いられている。特にUFGは“トラの子の核施設”がターゲットだけに非常警戒態勢が敷かれる。

 北朝鮮軍は期間中、軍や内閣、各機関を瞬時の戦時に転換する訓練を行い、有事の際の最前線の占領訓練などを繰り返す。このため北朝鮮の挑発が偶発的衝突を誘発しても不思議ではない。

 UFGに参加する米韓軍は例年レベルで米側が米本土、太平洋軍司令部、在韓米軍など約2万5000人、韓国軍が約5万人、さらに国連軍司令部のオーストラリア、カナダ、フランスなど9カ国も加わる。演習期間は約10日間。

 シミュレーションは米韓の有事作戦「作戦計画5015」をベースに北朝鮮の核攻撃への反撃に加え先制攻撃のシナリオ入っている。

米国に肌身の脅威を

 “8月危機説”の根拠とされるのが、今月になって特異な動きをみせている北朝鮮の潜水艦の活動だ。

 米CNNによると、北朝鮮は先月28日のICMB発射直後の30日、潜水艦発射ミサイル(SLBM)の水中射出実験を北朝鮮東部・咸鏡南道の新浦で行った。北朝鮮は同実験を7月中、4回も繰り返し行っていたとされる。

 北朝鮮の脅威はICBMに次いでSLBMである。核戦争を想定した場合、SLBMは戦略兵器として極めて有用。核弾頭を装着すれば先制攻撃、報復攻撃、奇襲攻撃となる。例えば韓国の南の海域に進入すれば高高度防衛ミサイル(THAAD)の探知範囲から外れるため迎撃は困難だ。

 北朝鮮のSLBMは「北極星1号」だが、昨年のUFG開始3日目、北朝鮮はの新浦付近から「北極星1号」を試射、成功させた。SLBMは海中から高圧蒸気で発射したあと空中でエンジン点火する「コールドローンチ方式」の技術確立が欠かせない。

 潜水艦にダメージを与えないためだが、北朝鮮は昨年8月24日の発射で成功、約500キロ飛行し、日本の防空識別圏(ADIZ)内の海上にミサイルを落下させた。このときは金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「成功中の成功、勝利中の勝利だ」(朝鮮中央通信)などと大喜びの談話を出した。

 「北極星1号」は1990年代にロシアから入手した潜水艦発射ミサイル「R−27」を元に改造、本格的な開発を始めてわずか1年で射出実験を成功させた。

http://www.sankei.com/premium/news/170806/prm1708060017-n1.html

>>2以降に続く)