拡大路線で成長を遂げてきた韓国の免税店が岐路に立たされている。

その市場規模世界1位という。しかしこのところ中国からの観光客が減少していた。それは在韓米軍の米最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」配備のせいだ。

その影響で打撃を受けていた韓国免税店の外国人売上高だったが、このところ2カ月連続で増加した。売上増加は大規模なセールやマーケティングによるもので、収益性は大きく低下していることから営業赤字が膨らむ恐れがあり、業績の回復には時間がかかるとみられている。

ランクアップも手放しで喜べない免税店

韓国の免税店は、2016年までの5年間で売上218%増など急成長を遂げてきた。2017年2月に月間売上8億8254万ドルを記録したが、中国人観光客の激減で同4月の外国人売上は3分の2まで落ち込んだ。

2017年7月のグローバル免税専門誌ムーディーデビッドリポート最新号によると、ロッテ免税店の2016年の売上は47億7000万ユーロ(約6000億円)に達し、DFSを抜いて世界第2位に浮上、新羅免税店も初めて5位にランクインしたが、朗報にも「喪家で祭りをするようなもの」と手放しで喜べないほど激しい落ち込みが続いている。

韓国免税店協会がまとめた2017年6月の韓国免税店の外国人売上は6億8857万ドル(約770億円)で前月比5.0%増加したが、同年2月と比べて売上は22.0%、来客数も34.8%のマイナスとなっている。

ハンファギャラリアは済州空港免税店の営業権を返上し、社員と役員が年俸と賞与の一部を自主的に返上したほか、ロッテ免税店も2017年6月の経営戦略会議で幹部社員と役員約40人が年俸の10%を返上することを決めている。

韓国人利用が多い免税店

韓国観光公社の発表では、2016年6月に韓国を訪れた外国人観光客は99万1802人で、前年同月比36.2%のマイナスだった。

中国人観光客は対前年比66.4%減の25万4930人で、日本人観光客も6.9%減の16万7785人にとどまるなど、訪韓外国人が軒並み減少した一方で、海外旅行に出掛けた韓国人は延べ209万8126人で前年同月比18.0%増加している。

一般に免税店は外国人旅行者などの非居住者に対して、国内消費を前提とする関税や消費税等を免除する制度だが、韓国の免税店は居住者である韓国人の利用割合が高い。

2016年の売上106億860万ドルのうち、28%にあたる29億9087万ドルが韓国人による売上で、中国人観光客が急増する直前の2011年には49%など、韓国人売上が半数を占めていた。

韓国はブランド品が高額なため、精巧な偽物が出回っていたが、免税店は関税当局による徹底した物品管理で偽造品が入り込む隙はない。訪韓外国人はもとより、本物を求めて免税店を利用する韓国人が多いのだ。

韓国から最も近い“海外”は長崎県の対馬で、渡航費も安い。免税メリットが大きく、1泊2日の小旅行に似つかわしくないスーツケースを持ち込むなど、免税店での買い物を目的とする韓国人の人気スポットになっている。

中国人観光客が急増した2015年には朴槿恵前大統領が青瓦台(大統領府)の経済首席秘書官にソウル市内の免税店を増やすよう指示を出している。

関税庁は資料を改ざんして必要以上に免税店数を増やしたが、2015年以降にオープンした免税店で利益を出しているところは1つもなく、「お互いどこが先に撤退するか眺めている」という声も聞こえている。

仁川空港の免税店は、どの店に行っても酒、タバコ、化粧品といった定番商品と海外ブランド品が並んでおり、韓国土産は皆無に等しい。

免税店以外に見るものがないと揶揄される韓国で免税店の衰退は観光業全体の衰退にも繋がりかねない。免税店の在り方は韓国観光業全体の課題である。(佐々木和義 韓国在住CFP)

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