北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が引き金となり、韓国の経済構造の転換を促す声が高まりそうだ。

 韓国政府は、北朝鮮のミサイル開発加速を受けて、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の増強に乗り出す方針を固めたが、これに中国側が「強い懸念」を表明し、圧力を一段と強める構えをみせている。

 経済の中国依存を弱める手立てを打たなければ、韓国は、外交で中国にすり寄り関係改善を求めるほか道はなくなる。事態を放置していては苦境は長引くばかりだ。

中韓の亀裂深めた、北ICBM

 韓国にとって、まさに目を覚まさざるを得ないミサイル発射だった。7月28日の北朝鮮による2回目の弾道ミサイル発射は文在寅政権に、早期のTHAAD追加配備を決断させた。

 中国との関係や韓国世論を見据え、追加配備には1年以上はかかると予想されていたが、早くも米国側と配備への協議に着手したもようだ。現在、韓国南部・星州に発射台2基が配備されており、さらに4基が加わる計画だ。

 これに対して、THAADに付随するレーダーが自国内の監視に利用されることを警戒する中国側の反発はすさまじい。外務省の耿爽(こうそう)報道官は7月29日、「強い懸念」を表明するとともに、「(朝鮮半島の)問題を複雑化させるだけだ」と牽制。

 聯合ニュースによると、中国側は国営メディアを通じて、批判を展開している。

 「韓国と中国の外交、経済関係が長期的な被害を被る」

 「中国と韓国の関係損傷は避けられない」

 「中国人はTHAADの衝撃に失望していることを、政権は知らなければならない」

 こうした複数の中国の有識者の意見を紹介し、韓国側へのさらなる「報復」をほのめかしている。

中国依存、アダに

 韓国が昨年夏にTHAADの受け入れを決定して約1年。ネチネチと続く中国の韓国いじめは歯止めがかからない。矛先が向く観光関連産業や自動車産業の痛手は深い。

 現代・起亜自動車の1〜6月の中国での販売台数は前年同期比46・7%減少。聯合ニュースによると、危機的な中国での販売状況を踏まえ、社内でタスクフォースを作り、対策の検討を始めたという。

 6月の訪韓外国人観光客数は前年同月比で36%減で、4カ月連続の減少。中国人の減少率は66%に及ぶ。免税店を運営する企業では、給与を一部返上する動きもあり、身を削って耐えしのいでいる。

 中央日報(日本語電子版)によると、6月のクルーズ船観光客は前年同月の1割以下の約1万人。中国人団体旅行が制限された3月以降、激減した。

 クルーズ観光客の9割を中国人が占める、極めて高い「中国依存」があだになった形といえる。クルーズ船の誘致PRを日本や米国で行うなど、顧客対象の多角化に取り組み始めたという。

北ミサイル→企業打撃の悪循環

 韓国がTHAADの追加配備の方針を固めたからには、中国からの報復も同時に覚悟せねばならない。追加配備が現実となれば、これまで以上に圧力が広範囲に及ぶ恐れがある。

 THAADをめぐり、韓国が外交の交渉を通じて、中国を軟化させることは極めて困難だ。韓国が取りえる有効策は、報復の衝撃を緩和する政策を立てると同時に、企業が「チャイナ・プラスワン」の新天地を開拓することに尽きる。

 「企業の苦痛に目をそらし続けるのか」としたTHAAD報復をテーマにした中央日報(日本語電子番)のコラム記事は、被害の実態把握と支援対策の重要性を指摘。また「中国事業の移転、調整、縮小以外に考えられない」とする企業関係者の声も伝えた。

 中国が積極的に関与しない限り、北朝鮮のミサイル開発はとまらない。中国の圧力を受けて、韓国経済が疲弊していく悪循環を早めに断ち切る策の構築が急務だ。

http://www.sankei.com/west/news/170807/wst1708070002-n1.html

http://www.sankei.com/images/news/170807/wst1708070002-p1.jpg
7月29日、韓国東部の日本海側で行われた米韓両軍のミサイル発射演習(韓国軍合同参謀本部提供・聯合=共同)