韓国が背負う《事大主義》について過去、小欄では何度か批判しつつも、哀れんできた。

 しかし、プライドが高いのか低いのか正体不明の韓国は一見、事大主義に逆行する大それた振る舞いに走ることもある。《未来司令部》構想も、その一つ。未来司令部構想は、朝鮮半島において軍の「南進」を促すだろう。

 ただし、韓国に攻め入る北朝鮮・朝鮮人民軍による南進ではなく、在韓米軍の「南進」。在韓米軍隷下の米陸軍第8軍司令部が7月、ソウル中心部よりソウル南方の京畿道平沢に移転、第8軍の主力・第2歩兵師団も来年、平沢へと「撤退」する。

 来年にかけて、在韓米軍の隷下部隊の南下はめじろ押しだが、在韓米軍としては朝鮮半島南下を止めず→対馬海峡も渡り→日本まで退きたい心境に相違あるまい。それほど、未来司令部構想は在韓米軍をして「未来」を不安視させる、あきれ果てた愚策だった。

 事大主義とは《小が自らの信念を封じ、大=支配的勢力に事(つか)え、自己保身・生存へと流されていく外交姿勢》などを意味する。

 だが、未来司令部構想は逆。在韓米軍が現有する《戦時作戦統制権》を韓国軍に返還し、《単一司令部》の下、韓国軍が米軍を作戦統制する、にわかには信じがたい内容だ。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限で、現在の戦時作戦統制権は米軍大将が司令官の席に着く米韓連合司令部が有する。言い換えれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動を実施し、単独で自軍を動かせない。

在韓米軍が38度線を離れ「南進」し続ける本音とは?

 今回の第8軍司令部の「南進」は、各地に点在する在韓米軍基地の統廃合で機能を向上させるとともに、北朝鮮・朝鮮人民軍の第一撃をしのぎ、被害を最小限にする狙いがある。

 何しろ、南北境界の非武装地帯(DMZ)付近の地下坑道陣地などに、朝鮮人民軍は1万門・基もの長距離火力を集中して据え付けている。首都ソウル中心部は、南北の軍事境界線(38度線)から30キロしか離れておらず、朝鮮人民軍の170ミリ自走砲や地対地ロケット・フロッグ7の射程なら余裕で届く。

 一斉に撃ち込まれれば「ソウルは火の海」と化す。平沢まで下がったところで、200キロ飛ぶ新型の300ミリ多連装ロケット砲に至っては平沢を越え、軍の重要施設が集まる大田(テジョン)にまで達するのだが、ソウル駐屯時に比べれば後方の平沢はまだ想定被害が小さい。

 半面で、戦時作戦統制権の韓国軍への返還もにらんでいる。

 米軍が戦時作戦統制権を有しているうちは、在韓米軍の数個の主力部隊はソウル以北に陣取るが、韓国軍に返還されれば、対北抑止行動や緒戦での応戦は主に韓国軍の担任となり、ソウル以北に残留している米軍部隊も「南下」を加速させる。

 今回の在韓米軍「南下」は、戦時作戦統制権の返還問題とも連動しているのだ。

 戦時作戦統制権は、韓国の文在寅大統領と米国のドナルド・トランプ大統領との首脳会談で早期返還が合意されたが、同時に、戦時作戦統制権返還後の新たな米韓軍指揮体制が論点に浮上した。在韓米軍の「南進」計画が着々と実現する中、韓国政府・軍内で検討されたのが《未来司令部》構想であった。

 実のところ、米バラク・オバマ政権は韓国の朴槿恵政権との定例安全保障協議会(2014年)で、戦時作戦統制権が返還されれば、韓国軍が米軍を作戦統制する《連合戦区司令部》を創設する構想で合意し、関連作業をいったんは進めた。

 《未来司令部》構想は、朴槿恵政権初期に浮上したこの《連合戦区司令部》構想とほぼ同じ組織体を目指していると推測する。両構想は韓国軍が司令官(大将)、米軍が副司令官(大将)を各々担うことになる、とか。

 現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使。連合軍副司令官は韓国軍の大将が務めているが、上下関係が逆転することになる。

 でも、韓国では官民あげて大きな勘違いを犯している。米軍は伝統的に、他国軍の指揮・統制を受けないが、事態は米軍の伝統以前の問題だ。

http://www.sankei.com/premium/news/170807/prm1708070005-n1.html

>>2以降に続く)