アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏が、為替レートを操作しているとして中国を非難したのは正しいことであった。(もちろん気が変わるまでだが)

 しかしながら同じような疑惑は、世界のどこでも当てはまりうる。

 直接的にせよ間接的にせよ、全ての国はその通貨をある程度操作しいる。世界の国の3分の1を占める変動相場制の国でも、半数恒常的に為替レートを強めたり弱めたりしている。

 アメリカ合衆国は変動相場制をとっているため、ドル紙幣の需要と供給に応じて米ドルの価値が変動する。

 しかし、間接的にではあるが、中央銀行も為替レートに影響をあたえることもできる。米ドルも連邦準備制度理事会による利子率に関する声明によって増価したり減価したりするのだ。

 つまり、最も大切なことは操作自体ではなく、操作が世界中に悪影響を及ぼしているかどうかだ。今のところ、中国からのそのような悪影響はない。以下がその理由だ。

◆物価統制

 固定相場制の下では、国がその通貨の価値を定め、価値維持のために、必要に応じて外貨を売買する。

 これは物価統制と類似している。例えば1ガロンのガソリンが1米ドルに固定されているとすると、需要の上昇に伴い、さらにガソリンを供給しなければならない。反対に、もしガソリンの値段が5米ドルで、予想よりも少ない数の人がそれを需要した場合、政府が余剰を買い取らなければならない。

 つまり固定相場の下では、需要と供給の不釣り合いな部分を政府が正す必要がある。

図1:各相場制度を採用している国の数
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(出典:国際通貨基金)
クローリングペッグには安定した為替レートシステム(stabilized arrangement)を含む
クローリングペッグにはその亜種も含む

 市場にいる人々が、政府による相場の安定化がなされると信じなくなったとき、投機アタックと呼ばれるものが起きる。国内、そして国外の投資家がその国の通貨資産を売り出し始めるのだ。

 政府の介入がないときには「影の」価格が見積れる。政府は固定相場が影の価格と異なっているとき、外貨市場への大規模な介入を行う能力および意思がある時のみ、固定相場を維持することができる。

◆過小評価通貨

 中国人民銀行が1米ドル8人民元と設定していた2000年代半ばは、人民元の過小評価が通常であった時代であった。

 影の価格が為替レートを下回ると、外貨の流入量と流出量のつり合いがつかなくなる。

 過小評価された固定相場は人為的に弱い通貨を作り出す。これは、外貨のほうが需要が高いというものだ。アメリカ合衆国にとって、アメリカ産の商品を中国企業が買う費用が上昇するこれは、望ましくないものだ。

 中国は過小評価された固定相場を1990年から2000年までもの間採用し、人為的に輸出をしやすく、輸入をしにくくしていたのである。

 反対に、過大評価固定相場はその国の通貨をあるべき姿よりも強くする。有名な例であるアルゼンチンを含めた多くのラテンアメリカ諸国は1990年代に過大評価された固定相場をとっており、輸出会社は苦しめられた。

 中国の固定相場制で影の価格を図る最も簡単で正確な方法は、その国の外貨準備をみることだ。

 固定相場が過小評価されているということは、中国人民銀行が人民元の過小評価を維持するために外貨を買ったということである。こうして中国は主にアメリカ合衆国や他の国々の国債を蓄積させたのである。

図2:中国の外貨準備(兆米ドル)
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◆投機アタック

 これは2014年にすべて変わった。世界的な不況と中国経済の墜落の恐れが固定相場を過小評価から過大評価へ移行させた。

 言い換えると、人民元の影の価格が下がったのだ。中国人民銀行が人民元の固定相場を比較的保ったため、国内から資金を撤収させたい投資家や企業に外貨を売り始める必要があった。

http://newsphere.jp/economy/20170807-2/

>>2以降に続く)