かつてスウェーデンの”名門”として知られた自動車メーカーが、中国系企業の手によって再出発しようとしている。

それが、サーブ(SAAB)だ。軍用機や航空機を製造する老舗企業の自動車部門として1947年に生まれたが、1989年、経営危機にあった同社を米ゼネラル・モーターズ(GM)が救い、その傘下に入った。

その後もサーブの苦境は続いた。2008年のリーマンショックにより米系自動車メーカー各社は窮地に陥る。経営破綻に追い込まれたGMもまた、採算の取れなかったサーブを売却した。

紆余曲折の末、GMから中国企業の手に

オランダ企業の傘下に入ったり、中国企業の支援を受けようとしたりするもうまくいかなかった。結局2012年、最終的にサーブが身売り先として選んだのが、香港に拠点を置くNME(ナショナル・モダン・エネルギー)ホールディングスだった。

そしてサーブはEV専業メーカー・NEVS(ナショナル・エレクトリック・ビークル・スウェーデン)として、社名とブランド名を一新。来年2018年の第一弾商品発売で再出発する。

買収から時間が経ったものの、この間EVの量産化に向けた準備を着々と進めてきた。2017年1月には中国でEVを生産する許認可を取得。翌2月には中国の有力電池メーカーCATL(Contemporary Amperex Technology)とバッテリー供給で提携している。

NEVSとして初めて発売する車「9-3 EV」は6月、上海で行われた家電見本市「CES Asia」で披露された。Wi-Fi機能の搭載やソフトウエアの自動アップデートのほか、スマホにカギの機能を持たせるなど、従来の自動車の型にはまらない姿勢を示した。発売は2018年半ばを予定している。

販売面でも後発メーカーならではの手法を取る。「ディーラー網を一から整備するのは現実的ではない。個人が所有する車ではなく、カーシェアや法人用リースなどに特化し、ディーラーを持たずに販売する」(営業部門でマネジャーを務めるニコラス・サンデル氏)。

中国資本でも、開発の中心はスウェーデン

生産拠点は中国・天津に位置するものの、開発は旧サーブからそのまま移籍した約800人ものエンジニアが、スウェーデンを中心に活動している。販売店を持たないため、開発部門に人的資源を集中させられるのだという。

NEVSの開発部門でデザインを担当するアソク・アブラハム・ジョージ氏は、「中国資本だが開発陣のメンタリティはスカンディナビアンだ」と意気込む。

とはいえ、NMEホールディングスには自動車ビジネスのノウハウはない。中国人CEOのカイ・ヨハン・ジャン氏の斬新な発想が、旧サーブとうまく融合するのかは未知数だ。

中国の自動車業界に詳しい現代文化研究所の呉保寧・上席主任研究員は、「EVブームに便乗した、投資目的の事業だ」と指摘する。

一方、サーブと同じスウェーデン発の自動車メーカー、ボルボ・カーは、中国企業傘下でいち早く成功を収めている。2010年、中国の自動車メーカー・浙江吉利控股集団(ジーリーホールディングス)は、ボルボを買収。

以来、同社はジーリーの豊富な資金を元手に開発を加速させ、安全技術や電動化の先端企業となった。

ジーリーは冷蔵庫など家電の製造販売から出発した民営の自動車メーカー。当時、米フォード・モーター傘下で経営難に陥っていたボルボをジーリーの創業者である李書福(リー・シューフー)董事長が18億ドル(当時で約1600億円)で買収した。

フォード傘下時代とは打って変わって、資金力のあるジーリーは、ボルボ買収後に研究開発費を積み増し、内燃機関やプラットホーム(車台)、デザインの刷新を進め、ボルボを高級車ブランドに押し上げた。

親会社が支援、ボルボの開発費はスバルの倍

ボルボの販売規模は小粒ながら、研究開発費として、年間販売100万台規模のマツダやSUBARUと同程度の年間1300億円弱を投じている。1台当たりの開発費に換算すると、これら2社の倍近い金額をかけていることになる。

豊富な資金力を後ろ盾にするボルボは、自動運転や電動化といった次世代技術にも積極的に取り組んでいる。

http://toyokeizai.net/articles/-/182572

>>2以降に続く)