韓国の輸出の30%を担っている自動車産業に危機の影が濃厚に立ち込めている。中国の高高度防衛ミサイル(THAAD)報復にともなう販売不振、労組のスト、韓米自由貿易協定(FTA)再協議に続き通常賃金訴訟まで加わった。

ソウル中央地裁は17日に起亜(キア)自動車の通常賃金訴訟1審判決を下す。起亜自動車労組などは「賞与金も通常賃金に含めてほしい」と2度訴訟を提起している。

韓国自動車産業協会のキム・ヨングン会長は7日、「韓国の自動車産業の命運を分ける分岐点になるかもしれないと言えるほど起亜自動車の通常賃金関連判決の意味は格別だ」と評価した。

労働者が受け取る月給のうち通常賃金に分類される項目が重要な理由は、通常賃金が法定手当て(年次月次、延長労働、休日手当てなど)の基準になるためだ。したがって賞与金が通常賃金に含まれる場合、会社が労働者に支給しなければならない各種手当ても一緒に金額が大きくなる。

もし起亜自動車がこの訴訟で敗訴する場合、経営に相当な負担を与えるほど支給金額が多い。起亜自動車労組が提起した集団訴訟によると、2008年8月から2011年10月までの3年間に受け取った年750%相当の賞与金が通常賃金に含まれれば起亜自動車は組合員に6869億ウォンを追加支給しなければならない。

2011年10月〜2014年10月に支給した賃金にも別の訴訟が起こされているが、起亜自動車が敗訴すれば約1兆1000億ウォンを支給しなければならない。また、通常賃金は退職金算定の基準になるが、会計評価基準上、退職勘定にも別途の金額を追加で積み増ししなければならない。

これを総合すれば起亜自動車は2015年12月基準で最大3兆1000億ウォンの費用を出さなければならない。起亜自動車の上半期の営業利益は7868億ウォン。追加支給額のうち半分だけ引当金として積み立てても起亜自動車はすぐ赤字企業に転落する。

同じ民主労総金属労組傘下の韓国GM労組も同様だ。起亜自動車が敗訴すれば、同じ理由で係争中である韓国GMも敗訴する可能性が大きくなる。韓国GMが2012年に業績を集計し通常賃金訴訟敗訴に備えるために積んだ3年分の引当金は7893億ウォンだった。

起亜自動車を基準として見れば、韓国GMも3兆5000億ウォンほどの金額を引当金として積み増さなければならない状況が起きかねない。昨年韓国の自動車メーカー5社が稼いだ金額の7兆5000億ウォンに迫る6兆6000億ウォンが蜃気楼のように消えることになりかねないという意味だ。

通常賃金という「火薬庫」は現代(ヒョンデ)自動車グループ全般にも影響を及ぼしかねない。起亜自動車が現代自動車と研究開発を共有し、系列会社を通じて部品・資材を購入する比率が高いためだ。金属労組は2008年から現代製鉄や現代ロテムなど現代・起亜自動車グループ系列13社を対象に29件の通常賃金関連訴訟を進めている。

大徳(テドク)大学自動車学科のハン・ジャンヒョン教授は、「通常賃金は起亜自動車だけの問題ではなく自動車産業全般にわたった問題。起亜自動車が耐えがたい兆単位の損失を記録するならば部品を供給する協力会社に影響が転移し部品供給網が根本から揺らぐことになりかねない」と指摘した。

韓国の自動車メーカーはTHAAD配備にともなう中国内の反韓感情拡散により3月から販売が急減した。上半期に中国市場で現代・起亜自動車の販売台数が47%減少して、営業利益も現代自動車が16.4%、起亜自動車が44.0%減った。

こうした状況で現代自動車はストのカードまで取り出した。7日の争議調停委員会で現代自動車労組は10日と14日にそれぞれ4時間ずつの部分ストをすることにした。6年連続でストを決めたのだ。現代自動車労組は昨年24回の長期ストを行ない、3兆1000億ウォン規模、14万2000台の生産支障を記録している。

LG経済研究院のキム・ボムジュン責任研究員は「ただちに『危機』とみるには中途半端な状況ともいえるが、警告灯が点灯したのは明らかだ。自動運転車など未来技術に果敢な投資が必要なタイミングで大規模引当金を積むならば企業の成長性に否定的影響を与えかねない」と話した。

http://japanese.joins.com/article/129/232129.html