つい半年前まで一強状態にあった安倍政権は、頻発した教育関連スキャンダルや閣僚らの失言により支持率が急落し、都議選でもかつてない敗北を喫するなど、劣勢が続いています。8月3日には支持率回復を期して内閣改造に手を付けたものの、改憲日程について与党内でも異論が出るなど、今後の政権運営についてはなおも厳しい状態が続くと予想されています。

 かねてから安倍政権が「右傾化」していると批判してきた中国は、安倍政権の苦しい現況をどう見ているのか。中国メディアの、内閣改造前後の安倍政権の報じ方を通して、中国側の見方を追ってみることにしました。

櫻井よしこ氏が入閣!?

 まず、内閣改造前の報道はどうだったのでしょうか。

 中国メディアは、日本のメディアの報道を引用する形で、安倍政権が数々のスキャンダルにより支持率が急落し、求心力が落ちている状況を紹介していました。

 特に稲田朋美元防衛相をはじめ「安倍ガールズ」と呼ばれる女性議員らが足を引っ張っていることを強調し、内閣改造に当たっては新たに選出される女性閣僚が誰になるのかが1つの注目点だと報じていました。

 そうした一連の報道の中で一際目を引いたのが、「右翼分子、櫻井よしこ氏が入閣? 安倍ガールズ入りか?」という「新華社」の報道です。

 他の多くの中国メディアが新華社の記事を引用する形で大きく扱っており、中国における櫻井氏の“危険な人物”としてのネームバリューと存在感が伝わってきます。

 この報道の出所は、日本のある若者向け雑誌の予想記事のようです。冷静に考えれば、議員ではない櫻井氏が入閣する可能性はほぼないのですが、新華社は櫻井氏を警戒するあまり、勇み足で報じてしまったものと思われます。雑誌の記事とはいえ、中国側としては見逃すことのできない予想だったのかもしれません。

「首相が態度を改めなければ意味がない」

 内閣改造後の報道に移ると、こちらも日本のメディアの記事引用をベースとしつつ、組閣の顔ぶれや背景、狙い、各閣僚らの経歴をまとめて解説しています。

 「環球時報」はそうした解説と合わせて、中国の政府系シンクタンク「中国社会科学院 日本所」の高洪副所長のコメントを紹介していました。高洪副所長は、今後の政権運営は「首相本人の態度が肝心」だといいます。

 高洪副所長はコメントの中で、「森友学園や加計学園など安倍首相の旧友に関するスキャンダルは表面上の問題に過ぎない」「根本的な問題は、安倍首相本人の政策や価値観が国民から信頼が得られていない点にある」と指摘しています。

 そのため、「いくら閣僚を変えたとしても、国民や国際社会に対し誠実な態度を示すなど首相本人が態度を改めなければ意味がない」と分析しています。

 上記の指摘は、方向性としてはいくらか頷ける点もありますが、安倍首相の「信頼が得られていない政策」として挙げている中には、「覇権主義」「中国への対抗」「日米同盟強化」などがさりげなく含まれています。高洪副所長はおそらくわざと読み違えているのでしょう。内政はともかく、日本国内で安倍政権の外交への評価はそんなに悪くないというのが筆者の実感です。

岸田政調会長、河野外相に注目

 内閣改造後の閣僚については、やはりというか、前外相の岸田文雄政調会長と新たに就任した河野太郎外相の2人に対して多くの紙面が割かれていました。

 「澎湃新聞」は上海外国語大学 日本文化経済学院の博士生教授のコメントを引用し、岸田政調会長が「ポスト安倍」の最有力候補であること、そして率いる派閥(宏池会)が自民党内きってのハト派(穏健外交派)であり、その岸田派から今回多くの議員が閣僚入りしたことに注目して、「ハト派勢力が拡大」「右傾化に一定の抑止力」などと伝えています。

 河野外相については、「アジア外交を重視した河野洋平氏の息子」である点を強調し、こうした人物を新たに外相として起用したことは、安倍政権が穏健な外交方針に転換したことの表れだ、と分析していました。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50737

>>2以降に続く)