「成績優秀者には奨学金!」「面接のプロによる特別講義」−。ソウル駅から南へ3駅目、鷺梁津(ノリャンジン)駅周辺は今、静かな熱気に包まれている。

 一帯に集中する公務員予備校の派手なポスターや看板があふれ、予備校の教室は全国から集まった生徒で埋まっていた。

 文在寅(ムンジェイン)大統領が雇用対策として目指す公務員81万人増。その第1弾として、年内に地方公務員を中心に1万人以上増やす方針を決めた。

 昨年の若者(15〜29歳)の失業率は史上最悪の9・8%。深刻な「就職氷河期」に直面する若者を、公共部門で救済する狙いだ。

 公務員人気は既に高く、今年6月にあったソウル市の採用試験の競争倍率は86倍に達した。

 大手企業への就職を断念し、鷺梁津の予備校に半年通った南東部蔚山出身の30歳男性は「チャンスが広がり、とてもありがたい」と文政権の決断を歓迎。毎日5時間の勉強を続け、10月に実施される次の採用試験に備えている。

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 文政権の目玉政策の一つである公務員増だが、実現は簡単ではなかった。財源になる補正予算案に野党が抵抗したからだ。

 韓国国会で文政権を支える革新系与党「共に民主党」は120議席で、定数(300)の過半数に届かない。議案の可決には、民主党から分裂した中道野党「国民の党」(40議席)などの協力が不可欠だ。

 ところが、文氏が6月初めに補正予算案を国会に提案した後、大統領選中に流れた文氏の息子の就職を巡る不正疑惑情報が国民の党員による捏造(ねつぞう)だったことが発覚。

 民主党の秋美愛(チュミエ)代表が国民の党執行部に対し「(捏造を)知らなかったとすれば、打ち首にすべきだ」と発言したため、国民の党が態度を硬化。補正予算案の審議を拒否した。

 結局、大統領府が文氏の謝罪の意思を国民の党に伝え、事態は収拾。7月末、補正予算案はようやく可決されたが、文政権は少数与党の国会運営の難しさを早速突き付けられた。

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 雇用対策として公務員増と並ぶもう一つの柱は、最低賃金の改善だ。文氏は大統領選で現在の時給6470ウォン(約640円)を2020年までに1万ウォン(約千円)にする方針を公約に掲げ、大統領就任後、まず18年に16・4%増の7530ウォン(約750円)とすることを決めた。

 過去5年間の平均上昇率(7・4%)の2倍以上の引き上げは、所得を増やして経済を好循環させる効果はあるが、中小・零細企業には荷が重い。

 逆に雇用が減る懸念もあるため、政権は引き上げ分の一部を公費で賄う方針。雇用や賃金の税金負担を増やす方向の文政権の政策には、野党から「市場経済主義に反する」との批判も強い。

 70%超の高い支持率を“力”に、矢継ぎ早に大胆な経済政策を打ち出す文氏。市場関係者は「人権派弁護士出身らしい大衆迎合的な政策ばかり。財閥中心の経済構造の改革やベンチャー育成という本丸はこれからだ」と注視している。 (ソウル曽山茂志)

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公務員予備校のポスターが並ぶ鷺梁津駅周辺=ソウル、8日