圧倒的な取材量や関心の幅広さ、物おじしない行動力…。蓄積された「知」は文章だけでなく、よどみないトークにも発揮され、聞いている人を納得させる。気鋭のジャーナリストと評され、注目を集める。

 差別やヘイトスピーチ問題に真正面から挑み、ノンフィクション分野で受賞を重ねた。その中で「放っておけない」と注目してきたのが、沖縄に向けられる“憎悪”だった。

 「沖縄や沖縄メディアに対するヘイトが耳に聞こえ、目にする機会が多くなった。取り組むのは必然だった」と振り返る。

 「沖縄の2紙はつぶさないといけない」などと報道圧力問題が昨年、湧き起こる前から、沖縄に通い続けた。新聞記者だけでなく、2紙を批判する人たちへも取材を重ねた。

 その成果は6月、「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか」(朝日新聞出版)にまとめ出版した。沖縄に何度足を運んだか覚えていないが、読むと徹底した取材であったことが分かる。「LCC(格安航空会社)がなければ、破綻していたよ」と笑った。

 主に沖縄メディアを扱っているが、問うているのは普遍的だ。憎しみあふれた言動がマイノリティーにためらいなく浴びせられる日本社会の現状がある。

 「問題は圧力や憎悪表現を受ける側でなく、加える側にある。加える側には、社会に生きる人として間違っているだろ、本当の敵は日本社会自体だと言いたい」

 懸念するのは、憎悪表現が繰り返しリニューアルされ、洗練された感を装って伝えられ、一般に根付きやすくなっていること。

 「われわれの社会の問題として捉えられなければ、この社会がどんどん壊れていく」と危機感を持つ。「僕自身もヘイトや差別問題を取材し続けていく」。覚悟を力強く語った。(東京報道部・宮城栄作)

 やすだ・こういち 1964年、静岡県生まれ。「週刊宝石」「サンデー毎日」などを経て、2001年からフリーに転身した。12年に「ネットと愛国 在特会の『闇』を追いかけて」で講談社ノンフィクション賞を、15年には「ルポ 外国人『隷属』労働者」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。

 ※「アクロス沖縄」は、沖縄への熱い思いを持ち、県外の様々な分野で活躍する人たちを紹介する企画です。

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/56704

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ゲンロンカフェで沖縄へのヘイトスピーチの問題について語る安田浩一さん(ゲンロンカフェ提供)