息子「父さん、この人誰?」

 父「日本で働かされたおじさんだよ」

 息子「何で日本にいたの?」

 父「韓国から日本にむりやり連れていかれたんだ」

 息子「日本人は悪いやつらだね」

 韓国ソウル市の竜山駅前の広場に数日前に設置されたばかりの「徴用工像」の前で、韓国人親子が交わしていた言葉だ。やせ細った男性の姿をした徴用工像は、日韓の新たな火種を暗示しているようにみえた。

 韓国の文在寅大統領は15日、日本の朝鮮半島統治からの解放記念日「光復節」の式典で演説を行った。演説に盛り込まれる対日メッセージが注目される中、文氏は「強制動員の苦痛は続いている」と徴用工などの問題に言及。今後の日韓関係を不安視させる問題提起をした。

 先の親子の会話に登場する徴用工や、勤労挺身隊など日本統治下で韓国側が「強制動員された」と主張する問題だ。

 元徴用工や元挺身隊員らの個人請求権は、1965年の日韓請求権協定で消滅し日韓で解決済みだ。にもかかわらず文氏は演説の中で、新たな問題の蒸し返しを公言した。

 韓国駐在の外交筋や日本の財界関係者の間で、文政権発足当初から懸念されていた「悪い予感」は、現実となった。韓国では、日本企業を相手取った元徴用工や元挺身隊員らの損害賠償訴訟で、日本企業の敗訴が相次いでいる。慰安婦問題同様、韓国世論の多くは文氏の考えを支持している。

 そんな文氏だが、一方では日本にも気遣っている。「歴史問題が韓日関係の未来志向的発展の足を引っ張り続けることは望ましくない」。文氏は、冷え切った対日関係の改善を求めているわけだ。背景には挑発を続ける北朝鮮と、低迷する韓国経済がある。

 文氏は対日外交で「歴史認識問題」と経済や安保を切り離す「ツートラック政策」を志向し、「現実的に日本との関係改善は必須」(政権関係者)とみている。

 現に日韓関係が最悪に陥った朴槿恵前政権に比べ、文政権下ではメディアをはじめ日本への歩み寄りがうかがえる。こうした対日配慮の裏には、国益のためには歴史問題は別として、日本は頼りにできる国、利用すべき国という認識=「用日」があるようだ。

 ただし、歴史認識に関しては文氏も前政権と変わりはない。文氏はこうも述べている。「韓日関係の未来を重視するからといって、歴史問題を覆い隠して進めるわけにはいかない。歴史問題にけじめをつけたとき両国の信頼がより深まる」

 文氏の対日政策は結局、韓国側の主張に日本側が沿った上で成り立つようだ。日韓関係はこれまで、韓国国内の政治状況に左右され、そのたびに日本は振り回されてきた。

 2015年末の日韓合意の精神に反し、ソウルの日本大使館と釜山の日本総領事館の前に置かれた慰安婦像は撤去されず、現在、行政当局に守られている。それどころか文政権発足後、慰安婦像は韓国内の各地に次々と増設され、新たに徴用工像も設置され始めた。

 文政権は、慰安婦合意の再協議を棚上げして対日関係改善を図ろうとはしている。

 だが今回、徴用工問題を新たに突きつけたことが、慰安婦問題の再燃につながる可能性は否定できない。(ソウル 名村隆寛)



 17日で発足100日を迎えた文在寅政権。日米や中国、北朝鮮との間にさまざまなジレンマを抱え、足踏みする文政権を分析する。

http://www.sankei.com/premium/news/170817/prm1708170012-n1.html

http://www.sankei.com/images/news/170817/prm1708170012-p1.jpg
15日、ソウルで開かれた式典で、韓国の文在寅大統領(右)は元徴用工の男性と握手した(聯合=共同)
http://www.sankei.com/images/news/170817/prm1708170012-p2.jpg