北朝鮮情勢が緊迫化する中で、トランプ米大統領は14日、通商法301条に基づき、中国による知的財産権侵害に関する調査を通商代表部(USTR)に指示する大統領令に署名した。12日の習近平中国国家主席との電話会談で通告していた。

意気込みはよいとしてもどこまで罰せるかどうか、疑わしい。アップルなど米企業の多くはすでに中国当局の人質同然になっており、中国側に逆らえなくなっているからだ。

米ウォールストリート・ジャーナルの9日付電子版の「中国の夢はアップルの悪夢、規制に屈する米IT企業」と題する記事はまさにそのポイントをついている。アップルなど米ハイテク大手企業は「ストックホルム症候群」にかかっているという。

同症候群とは、誘拐、監禁された被害者が長い間、犯人と接しているうちに、犯人にある種の連帯感や好意を抱くようになる心理状況や行動を指す。米各社はIT、車の自動運転、ロボットなど中国の国産化戦略に協力し、中国企業との合弁を通じて巨額の投資を行い、技術移転に応じてきた。

ITについて、中国は1990年代後半から、インターネットの検閲能力、統制技術を強化してきたが、筆者の知人である米国の中国専門家によれば、その基礎技術を提供したのは米ネットワーク機器メーカー大手だという。

中国共産党にとって都合の悪いウェブサイトをチェックし、遮断する。2016年3月には中国国内のインターネット接続サービスプロバイダー各社は、中国以外で登録されたドメイン名のウェブサイトへの接続を禁じた。

最近では、アップルが中国当局のインターネット検閲システムを回避できるアプリケーション・ソフトを中国のアプリ配信サイト「アップストア」から撤去した。

同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)は「単に中国の法律に従っているだけだ」と説明しているというが、アップルは米国をしのぐ市場規模になった中国の法令順守を、米国の「自由」理念よりも優先させている。

アップルに限らず、グーグル、インテル、IBMなども軒並み、中国には従順だ。何よりも規模が大きくしかも成長が見込める中国市場でのシェア獲得に目がくらんでいるからだ。

いわば、株主利益最優先の米国型資本主義の弱点が中国当局によって逆手にとられたようなもので、上記のクック発言のように、対中協力が当たり前かのごとき症状をみせている。

301条に基づく調査は中国による知的財産権侵害や技術移転の強要などが対象になる。だが、被害者の米企業が口をつぐめば、301条違反の証拠集めには手間取るだろう。そんな限界を突破するためには、米国は情報機関を総動員するくらいの決意が必要のはずだ。

1980年代後半、米大統領が日本製半導体のダンピング調査を命じたとき、担当のUSTRばかりではなく、中央情報局(CIA)の海外情報網を活用した。軍事上のライバルである中国には無論、そうするでしょうね、トランプさん。 (産経新聞特別記者)

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301条に基づく対中調査を指示する大統領令に署名したトランプ氏(UPI=共同)