北朝鮮の弾道弾技術の進展が目覚ましい。大陸間弾道弾(ICBM)の実験に先月2度成功して、まさに国際社会は大騒ぎになったが、無理もない。一昨年には北朝鮮にICBMなど10年早いと見られていたからだ。

ところが昨年、ICBMのエンジンの噴射実験に成功し、今年、発射に成功した。もちろん、技術的に問題は残されており、実戦配備は来年以降と見られるが、ひとたび配備されれば、金正恩の気まぐれ一つで、米国のどこに向けても発射され得るわけである。

つまり、昨年から今年にかけて北朝鮮のICBM技術は突然、進展した。当然、技術の提供元があると考えられる。そこで米国の研究者がそれは「ウクライナだ」と言い出した。ウクライナは旧ソ連時代にはソ連の支配下にあってICBMなどの兵器を製造し、ソ連軍に納品していた。

ソ連が崩壊しウクライナが独立した後も、主要産業は兵器産業で、主にロシア軍に納入していた。ところが、ウクライナの民主化に伴いロシアと対立し始め、ロシアに兵器を売れなくなってしまっている。

そこで、兵器技術が闇市場に流れ、最終的に北朝鮮の手に渡ったというのが、米国の見立てである。ウクライナと対立するロシアは、これに同調してウクライナを非難し、ウクライナはとんでもない言い掛かりだと反論するに至った。

米国の研究では北朝鮮のICBMのエンジンはウクライナで製造されたエンジンRD250系に類似するという。これだけ聞くとRD250系はあたかも最新の技術で製造されたエンジンのように思われようが、実は1970年代の旧式である。

冒頭で北朝鮮のICBM技術の、特にここ2年間の進展の目覚ましさを強調したが、それはこれまでの進展の遅さと対比しての話であって、現在の北朝鮮ICBMが世界的なレベルで最新というわけではない。

特に注目すべきは、北朝鮮のICBMが液体燃料を使用している点である。弾道弾の燃料には液体燃料と固体燃料の2種類があるが、液体燃料は保管が難しく、発射前に数時間かけて注入しなければならない。

固体燃料は入れっ放しにして、いつでも発射できるから、世界的に新式の弾道弾はすべて固体燃料である。北朝鮮でも潜水艦発射型弾道弾(SLBM)は固体燃料を用いているから、固体燃料がないわけではないのに、最新のICBMが旧式の液体燃料を用いているのはいかなるわけか。

これは、北朝鮮がエンジン技術を自主開発していない事を意味する。つまり他国から与えられた技術を鵜呑みにしているため、SLMBの固体燃料をICBMに応用することができないのであろう。

そこで技術の提供元はウクライナだと米国が言い出したわけだが、その技術は50年も前の技術であって、50年間にさまざまな国に流出した技術である。どこをどう通って北朝鮮にたどり着いたかは、慎重に検討すべきであって、ウクライナだけが非難されるべきではない。

50年間にさまざまな国に流出したと書いたが、一体どこから流出したのか。ウクライナが発明したわけではない。ソ連でもない。液体燃料型エンジンを完成させたのは他ならぬ米国である。

先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」

澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。

つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。

ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。

http://ironna.jp/article/7432

>>2以降に続く)