僕は最近、中国の習近平国家主席の動きに注意を払っている。政権を批判する者に対する手荒な行為が目立つからだ。

僕の親しい人間も逮捕されている。小泉純一郎政権の頃、小泉氏が毎年、靖国神社に参拝していたので、日中関係が非常に悪化していた。そこで僕は、親交があった当時の駐日中国大使・王毅氏(現・外相)に、「日中関係が悪化しているので、日本と中国の意見交換の場をつくろう」と提案した。

王毅氏は中国政府に働きかけ、日中ジャーナリスト交流会議の開催が実現した。日中の新聞、テレビ、通信社に所属するジャーナリストやフリージャーナリストたちを、日本から8人、中国から8人集め、1年に2回、北京と東京で交互に行われることになった。

中国側座長は劉北憲・中国新聞社社長、日本側座長は僕が務めた。

今月21日、その劉北憲氏が逮捕されたという連絡を受けた。日中ジャーナリスト交流会議の中国サイドは、日本で言えば内閣の広報担当者、つまり政府が仕切っている。その中国側の座長が逮捕されたのだ。

さらに先日は、「ポスト習近平」のナンバーワンと言われた前重慶市党委員会書記の孫政才政治局員が失脚し、非常に大きなニュースになった。

習近平は、なぜ次々と有力者を逮捕しているのだろうか。

中国は革命家の出現を恐れている

習近平政権は、今年秋の党大会で成立から5年を迎える。そこで習近平は、2期目の最高指導者として再任される予定だ。

どうも習近平は、あと5年どころか、終身主席を狙っているのではないか。つまり、第二の毛沢東になろうとしているということだ。そのために、邪魔になる人間を次々に粛清していると考えられる。

なぜ、こんなことをやるのだろうか。逆に考えると、今、習近平体制は相当危うい状況に陥っているのではないかと思う。

数年前、中国共産党の幹部から、「中国政府が一番恐れていることは、ゴルバチョフのような人間が出てくることだ」という話を聞いたことがある。ソ連のゴルバチョフは1985年に大統領就任後、ペレストロイカを唱えて改革に取り組んだ。その後、ソ連共産党は解体され、ソ連自体も崩壊することになった。

冷戦時代は、ソ連国内の経済が混乱し、完全な闇経済が形成された。そこで、プーチンは政権を握ってから経済危機の原因となった新興財閥と徹底的に戦い、ようやく国内の経済が安定した。

ソ連が崩壊したのは、ゴルバチョフのペレストロイカが発端だった。この歴史を見ていた中国政府は、絶対にゴルバチョフのようなリーダーを出すわけにはいかないと考えている。

ところが、中国でも少しずつ風向きが変わってくる。胡錦濤・前国家主席の時代、「中国革命の父」と呼ばれた孫文のような人物が、少なからず取り沙汰されるようになったのだ。

以前、僕は中国の知人から「田原さん、一度中国へ来て、孫文のような人たちを取材してほしい」と誘われたことがあった。ところが習近平体制になると、彼らが逮捕されそうになり、僕も日本に引き揚げざるを得なくなった。

中国は、多民族国家だ。共産主義が崩壊すれば、中国は解体する。だから、中国共産党は一党独裁体制を死守している。中国が選挙を一切しないのもそのためだ。

習近平が持つ危機感

今、習近平は、批判する者に対する締め付けを強化している。脅威となりうる人物を次々に拘束している。いささかでも反対を唱えた人物は、すべて逮捕する。それは、逆に言えば、習近平が革命を強く恐れているからだ。

先にも触れたが、習体制盤石ではない。逆に危機感を持っている。

ここで歴史を振り返ってみよう。ソ連の独裁者スターリンは、何千万人もの国民を大虐殺した。中国の毛沢東も、共産党を批判する者を消すために、粛清という名の大虐殺を行った。なぜ、そんなことをやったのかと言えば、独裁政治でなければ共産主義を維持できないと考えていたからだ。

1960年代、日本ではソ連が理想の国だと考えられていた。僕もそう思っていた。しかし、当時、実際にソ連に行って取材をしたところ、言論の自由が全くないことを知った。僕は、この国はダメになると確信した。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/082400034/

>>2以降に続く)