マレーシアのジョホール州はシンガポールに隣接するマレー半島最南端の州だ。このジョホール州とシンガポールの間にある海域で、中国企業がドバイのような埋め立て地に新都市を建設する大規模工事を始めている。

ただ、金銭目的だけではなく、インド洋と南シナ海を結ぶ戦略拠点マラッカ海峡への軍事的けん制が主眼とみられ、中国の軍事的侵出が懸念される。(池永達夫)

「レーダーとミサイル」打診 マラッカ海峡に照準も

8月5日付けの香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、新都市「フォーレストシティ」の面積は1400ヘクタールで人口規模は70万人。売りに出されるマンションの購入者は7割方、中国人で中国人の移民先になる見込みだ。

開発が始まったのは2006年。中国の「カントリー・ガーデン・ホールディング社」がマレーシア政府の認可を取り付け、開発中だ。

人口70万人の大規模な都市建設だけに完成は2035年になる予定だが、中国は国策として、100万人単位の住民が暮らせる都市建設をいくつも建設してきた実績があるだけに、そのノウハウは蓄積済みだ。

だが、購入者のほとんどが中国国籍の富裕層でマレーシア国内からも警戒する声が出てきている。

2004年まで首相を23年間務めてきたモハメッド・マハティール氏は、「これはマレーシアの主権に関わる問題だ。中国が狙うのは経済的な投資ではなく政治的意図を持った定住だ。

フォーレストシティは国土を外国に売り渡す売国的行為だ」と批判。さらに8月10日付のマレーシア英字紙ストレーツ・タイムズは「中国政府がマレーシア政府に対し、ジョホール州に中国製レーダーとミサイル導入を打診した」と報道した。

同紙はまた、11月に習近平国家主席がマレーシアを訪問する際、ナジブ首相と詰めの協議を行うことになるだろうとの観測記事を掲載している。

これが事実ならば、中国の本音は金銭取得だけではなく、軍事拠点を造る安全保障が絡むということになる。

これまで中国は、マラッカリスクを回避するため絶大な資金と政治力を投入してきた経緯がある。

アンダマン海に面するミャンマー西部のチャオピューからマンダレー、ムセを経由して中国雲南省の省都昆明まで石油と天然ガスのパイプラインを通したのも、有事になれば米軍が押さえるマラッカ海峡通過が困難になるとの安全保障上の思惑があったからだ。

そのため、中東やアフリカからの石油や天然ガス輸送をマラッカ海峡の1ルートにとどまらず、マラッカ有事の折にも有効に使えるバイパスを建設したのだ。

さらに現在、パキスタン西部のグアダル港から首都イスラマバードを経由して、高度5000メートル以上の峰々がそびえるカラコルム山脈を越えて、中国新疆ウイグル自治区のカシュガルまでパイプラインやハイウエーを構築しようというのも、マラッカリスク回避が最大の目的とされる。

マラッカ海峡のチョークポイントであるシンガポールに隣接する地に中国製レーダーやミサイルが導入されることになれば、中国はこれまでのマラッカリスク回避行動から一転し、米軍第7艦隊が押さえるマラッカ海峡そのものに軍事的照準を当てることができる。

新興国家中国が、インド洋と南シナ海を結ぶ戦略拠点を力で押さえ込もうと、米国に対し露骨な挑戦状を突き付けることになるのだ。

http://www.worldtimes.co.jp/world/asia/80252.html

http://www.worldtimes.co.jp/wtsekai/wp-content/uploads/2017/08/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3.jpg
シンガポールの4分の1の値段というのが売りのフォーレストシティの完成イメージ=同社パンフレットから
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