3発の弾道ミサイルを予告したグアム沖でなく、日本海へ向けて8月26日、撃った北朝鮮。

グアム沖へミサイルが発射される可能性はいぜん残されており、アメリカがそれに報復した場合、全面戦争に突入する恐れもある。そうなった場合、真っ先に軍事境界線周辺の非武装地帯に配備された北朝鮮の無数の長距離砲が、いっせいにソウルへ向け火を噴くことになる。

「現地に展開する在韓米軍の第2歩兵師団が即座に報復の対象になります。さらにソウル市街が射程の範囲内ですから、まさにソウルが火の海と化してしまいます」(軍事評論家の前田哲男氏)

一方、アメリカは今年4月、原子力空母カールビンソンを北朝鮮に向けて派遣したタイミングで、アフガニスタン東部のIS(イスラム国)の拠点を大規模爆風爆弾で攻撃した。

韓国在住のジャーナリスト、裴淵弘氏が解説する。

「『全爆弾の母』と呼ばれる超強力爆弾を落としたのですが、北に対するデモンストレーションだったともいわれています。北が非武装地帯に配備した長距離砲発射のための地下壕に対し、この爆弾を何発も落として壊滅できるという脅しの意味もあったのです」

さらに韓国側が有事に備えて遂行するのが、北朝鮮の最高指導部を“除去”する「金正恩斬首作戦」だ。

北朝鮮の現体制崩壊を目標として、米韓合同軍事演習で実施されている「作戦計画5015」に、斬首作戦は含まれているという。

裴氏が続ける。

「斬首作戦は、北の戦争指導部全体を殲滅するために3段階に分けられた総攻撃です。第1段階は、北にミサイル発射の兆候が見られたら30分以内に先制攻撃を仕掛ける『キル・チェーン』という攻撃構想です。第2段階はミサイル迎撃体制の完備で、第3段階がまさに斬首作戦になります」

その名が示すように正恩氏暗殺計画だが、アルカイーダの指導者だったウサマ・ビンラディン暗殺時のように特殊部隊を派遣するわけではない。

北朝鮮の多くの軍事施設は、地下坑道に配備されている。有事になれば、正恩氏は要塞化された地下の作戦指導部に身を潜めるといわれている。

「米韓軍がこうした地下施設をバンカーバスター(地中貫通弾)などで徹底的に叩くというのが、斬首作戦の要になるようです。韓国軍の弾道ミサイルの弾頭重量はこれまで500キロだったのを、倍増の1トンまで搭載できるようにしたのはこのためです。どんな地下要塞も1トンあれば完全に殲滅できると見込んでいるのです」(裴氏)

昨年9月9日の建国記念日に、北朝鮮は5回目の核実験を行った。同日すぐに韓国軍の参謀本部は「斬首作戦」を公表し、正恩氏への攻撃を示唆した。その意趣返しとして浮かび上がるのが、金正男暗殺である。殺害にVXガスを使用したのも、化学兵器の存在を暗に示したのではないか、との見る向きもあるほどだ。

9月9日に向けて、いまだ情勢は不穏なままだ。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日 オンライン限定記事

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