前回は、1998年8月31日の北朝鮮によるテポドン1号発射直後の拙論を紹介し、北朝鮮外交の基本方針がこの20年間一貫していることを示した。

今回は、それから13年後の2011年12月17日に金正日総書記が死去した直後に書いた論文を以下に抜粋引用してみよう。当時は、民主党の野田政権であったが、危機管理体制は十分ではなかった。韓国側も同様であった。その愚を繰り返してはならない。

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金正日死去後の問題は、金正恩が軍部を掌握できるかどうかである。「先軍思想」を維持することは間違いないが、軍の離反を招けば体制は揺らぐ。次に、民政の安定である。今のような経済情勢では、国民は飢え、体制への不満が高まっていくであろう。そこで、中国のような開放改革を進めていくことができるのか。

中国は、いわば兄貴分として、破綻に直面しているこの国を後見しているが、中国モデルに引き込むことができるかどうか。中国が最も恐れているのは、北朝鮮の不安定である。混乱を最小限に抑えながら、この国を開いていくという難事業を行わなければならない。

その課題は、日本やアメリカや韓国にとっても、同じである。安全保障の観点から、日米韓が協力体制を強化すべきである。金正日死去の発表の前日の日韓首脳で取り上げられた課題が従軍慰安婦問題だったとは、情けないかぎりである。韓国の情報収集体制はどうなっているのか。

北朝鮮崩壊、南北統一など今後の可能性は多々あるが、あらゆる可能性に備えて準備を整えておくのが政府の仕事である。難民の大量流入一つとっても、大変なコストがかかる。内政で失敗しても国は滅びないが、外交に失敗すると国は滅亡する。

核兵器、そして拉致と、われわれが北朝鮮を許せない問題がある。断固とした信念で、北朝鮮の新政権に対応すべきである。

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この13年前の論文を振り返ると、まず金正恩は軍部を掌握している。中国は半島が統一して自国に敵対的な国が隣国となるのを嫌うので、実効的な経済制裁は躊躇するであろう。

韓国のポピュリスト大統領、文在寅は従軍慰安婦問題など反日的言辞を弄し、当時と同様に安全保障面での協力関係を損なう危険性がある。

有事のときには、北朝鮮から大量のボートピープルが日本に流れ込んでくる。私は、そのことに警鐘を鳴らし続けてきたが、国民の危機感は高まっていない。

しかし、シリア内戦やISの攻撃などで、大量の難民が発生している悲劇は、日本人も昨今テレビの映像などで見ているはずである。また、移民や難民の流入がヨーロッパで外国人排斥運動につながり、イギリスのEUからの離脱や極右政党の台頭などのポピュリズムにつながっていることは周知の事実である。

「備えあれば憂いなし」、これこそが緊迫する北朝鮮情勢に対応する道である。

舛添要一
第19代東京都知事/元参議院議員・新党改革代表

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