防衛省は2018年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円を計上した。北朝鮮が続ける弾道ミサイル発射への対処を重視してミサイル防衛態勢の整備を進め、中国の海洋進出への対応として南西諸島の防衛強化策も盛り込んだ。

17年度の当初予算と比べると2・5%の増だ。それでも来年度は14?18年度が対象の中期防衛力整備計画(中期防)の最終年度で、5年間の総額は24兆6700億円程度と定められており、一定の歯止めがかかっている。

だが安倍晋三首相は13年に決定した、10年程度の防衛力整備の指針を定める「防衛計画の大綱」の見直しを表明。先の日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)でも「日米同盟での日本の役割拡大と防衛能力の強化」を打ち出しており、新たな大綱の下で今後、防衛費の大幅増に踏み切る可能性が指摘されている。

北朝鮮のミサイル発射に対処する適切な態勢の整備は必要だ。しかし厳しい財政事情の中で「脅威」を理由にした野放図な膨張は許されまい。装備の実効性と、より効率的な防衛態勢の整備に向けて厳しい精査が必要だ。

防衛費は第2次安倍政権の発足後の13年度に増加に転じ、増え続けている。18年度の概算要求では弾道ミサイル防衛の強化策が並ぶ。

海上自衛隊のイージス艦に搭載する改良型迎撃ミサイルや航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の改良型の取得費、新方式の次期警戒管制レーダーの開発費などだ。新たな装備として導入を決めた地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」は金額を示さない「事項要求」として記載。年末の予算案編成時に具体的な設計費を盛り込む方針だ。

中国の海洋進出を念頭に置いた南西諸島防衛でも、警備部隊の施設整備費や最新鋭ステルス戦闘機、新型輸送機オスプレイの取得費を計上。宇宙やサイバー分野でも経費を盛り込んだ。

一方で予算圧縮への取り組みは十分だろうか。米国から導入する無人偵察機グローバルホークは当初の予算を大幅に超えたとして取りやめも検討したが「対処力の向上に不可欠」として継続を決めた。「あれもこれも」が許されるほど財政の状況は甘くないはずだ。装備調達の優先度を査定し、部隊の整理・縮小にも、より厳しく取り組む必要があろう。

現行の防衛計画大綱は、人員削減などを明記した民主党政権時代の大綱を安倍政権下で改定したもので、沖縄県・尖閣諸島を巡る中国への対応が柱となっていた。首相は見直しの必要性として「厳しさを増す安全保障環境」を強調しており、北朝鮮の核・ミサイル開発の急速な進展を踏まえた対処策が中心となろう。

焦点の一つは、ミサイルの発射地点を破壊する「敵基地攻撃能力」だ。自民党の保有検討の提言に対し、首相は否定的な考えを示すが、「現時点では」と留保を付けている。政府は法理論上は可能との立場だが「専守防衛」の実質的な転換ではないか。巨額の費用も必要であり、容認できない。

防衛費は近隣諸国へのメッセージという面も持つ。北朝鮮や中国の軍拡を理由に、その「競争」に加わるのか。地域の安全保障環境の改善に向けた外交指針と併せた総合的な安全保障戦略の慎重な検討を求めたい。

http://ibarakinews.jp/hp/hpdetail.php?elem=ronsetu&;%E3%80%90%E8%AB%96%E8%AA%AC%E3%80%91%E9%98%B2%E8%A1%9B%E4%BA%88%E7%AE%97%E3%80%80%E5%8E%B3%E3%81%97%E3%81%84%E7%B2%BE%E6%9F%BB%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%A0