韓国中部の安東(アンドン)は韓国を代表する李朝時代の儒学者、李退渓(イテゲ)の故郷とあって「韓国精神文化の首都」といわれている。彼の居所だった陶山書院は風光明媚で人気の観光スポットだが、そばを流れる洛東江は筆者お気に入りの釣りのポイントなのでよく出かける。

ソウルから鉄道で3時間半ほどかかる。安東駅に着く少し手前の線路脇に古い伝統家屋が見える。「臨清閣」といい、日本統治時代に抗日独立運動をした地元の有力者の古宅だという。

この建物について文在寅(ムンジェイン)大統領は先の「8・15光復節」記念式典の演説で「日帝は彼への報復としてその家を貫通する鉄道を敷いた」と述べている。つまり日本当局は抗日活動への報復のためその生家の敷地にわざわざ線路を通し生家を台無しにしたというのだ。

「韓国で俗説としてよくある“日帝謀略説”のたぐいを大統領演説でやるとは…」と首をかしげていたら、当地の「週刊朝鮮」(朝鮮日報系、8月28日号)が詳細な現地ルポで日帝報復説を否定していた。

金泳三(キムヨンサム)政権(1993〜98)の時にも「日帝が韓民族の精気を断つため各地の名山に打ち込んだ鉄杭」を引っこ抜く運動をやっている。鉄杭は測量などのためだったのだが。つまり“近代”をもたらした日本への拒否感が謀略説になっているのだ。やれ、やれ…。(黒田勝弘)

http://www.sankei.com/column/news/170909/clm1709090006-n1.html