10月22日投開票の衆院選挙がいよいよ告示された。街頭演説のスケジュールを隠し、「ステルス」(隠密)などとメディアから揶揄されている安倍晋三総理の街頭演説を聞きに行った元SEALDs 諏訪原健さんが感じた違和感とは?

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安倍総理がつくば駅前で10月3日夕、街頭演説会を行うと知り、足を運ぶことにした。総理は先月25日の記者会見で、森友・加計学園疑惑について、「国民の皆様に対しご説明しながら選挙を行う」と語っていた。しかし本当にしっかり説明をするのだろうか…そんな思いを抱きながら、駅前へと向かった。

駅前に着いたのは、演説会の始まる20分ほど前だったが、すでに街宣車の周辺には人が溢れかえっていた。安倍総理は予定よりも少し遅れて、会場に到着した。総理の姿が見えると、一部の集団から「キャー!」と黄色い歓声が上がる。国民の代弁者にしか過ぎない前代議士に熱狂する姿は、私の目には異様に見えた。

安倍総理が街宣車の上に立つと、すぐ目の前にいた男性が「アベ政治を許さない」と印刷されたプラカードを掲げ始めた。周囲には党の関係者もおり、怪訝な顔でその男性を見つめている。

しばらくすると、オレンジ色のナイロンジャケットに身を包み、「自由民主党」ののぼり旗をもった、体格のいい男性スタッフ2名が、彼のところにやってきた。そして街宣車の上からはプラカードが見えなくなるように、のぼり旗を立て、プラカードを持った男性の前に立ちふさがった。

スタッフの聴衆を威圧するような態度にも疑問を感じたが、それ以上に違和感を覚えたのは、のぼり旗の掲げ方だった。私がもしスタッフで、どうしてもプラカードを隠したいと思ったならば、まずはメディア関係者の位置からどう見えるかを気にするだろう。しかし彼らにとっては、国民からどう見られるかよりも、安倍総理のご機嫌を損ねないことのほうが大切だったようだ。

演説会の途中では「安倍やめろ」の声も聞こえてきた。しかしその声も、コールが繰り返されるにつれて、どんどん遠くなっていく。私の位置からは何が起きたのか見えなかったが、街宣車から離れたところへと排除されたようだった。そんなこともあり、会場にはピリピリとした空気が流れていた。

さて安倍総理は、演説で何を語ったのか。あるいは語らなかったのか。約17分に及ぶ演説の構成は、大まかには次のような構成になっていた。

(1)候補者への支援の要請(5分)、(2)北朝鮮問題(5分)、(3)観光や農政を中心とした経済関係(1分)、(4)少子高齢化対策(2分)、(5)他党批判も含めた候補者への支援の要請(2分)、(6)雇用を中心とした自公政権の実績(2分)である。

候補者への支援の要請以外で、圧倒的に多くの時間を費やしたのは、北朝鮮問題だった。総理自身が「国難突破解散」と命名しているだけあって、今回の総選挙は「いかに日本を守り抜くのか」が問われているという認識を示していた。

総理は北朝鮮との「話し合いのための話し合い」には意味がないとして「圧力」という言葉を強調した。また世界各国の首脳たちは、総理に対して「日本の立場はよく理解したよ、協力しよう。みんなこう言ってくれた。」と述べていた。

しかし世界的な動向を見てみると、ほとんどの国が圧力よりも対話を重視している。トランプ大統領が強硬的な発言を繰り返しているアメリカですら、対話の糸口を模索している。総理の認識は、明確にズレていると言わざるを得ない。

さらに安倍総理は、「民主主義の原点である選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されていいはずがない」と熱弁し、これには聴衆からも歓声と拍手が起こっていた。しかしはっきり言って、これについては意味がわからない。疑惑を国会で追及されたくないという総理の思惑によって、解散・総選挙が行われることのほうが、余程あってはならない事態だと思う。

次に総理が何を語らなかったのかについて見ていこう。はじめに述べたように、私が演説会に足を運んだのは、総理自身が森友・加計学園疑惑について「国民の皆様に対しご説明しながら選挙を行う」と明言していたからだった。しかし疑惑について総理の口から語られることはなかった。

https://dot.asahi.com/dot/2017101000013.html

>>2以降に続く)