中国西部に位置する四川省の省都、成都に住むルビー・リさんは大学院で文学を修めた。中国の教育制度においてほぼ頂点に上り詰めたといってよいだろう。

2人の子供の母親となったリさんは、自分が子供たちと同じ年ごろだった時に耐えたひどいプレッシャーや、帰宅後も延々と宿題に取り組む生活を、子供たちには経験させたくないと思っている。

彼女は数年前、ビジネスマンの夫と相談して、長男を通常の幼稚園から転園させた。格式張らない柔軟な教育方針を持つ今の幼稚園に移って以降、長男はそれまでより楽しそうで、健康にもなった。加えて、家庭生活全体がより円満になったと彼女は話す。

リさんは裕福なので、成都ウォルドルフ学校に子供を通わせることができる。同校は、20世紀初期に活躍したオーストリアの教育家、ルドルフ・シュタイナー氏が提唱した奇抜な哲学を実践する私立の学校だ。

創立者の一人、張李氏によれば、創造的な教育を施すことを目的としており、音楽や物語の読み聞かせ、遊びをふんだんに取り入れた教育をする。構内はみすぼらしいが、活気にあふれている。墨が盛んに飛び散った書道室は自慢のタネだ。教室の壁には石器時代の洞窟壁画が描かれている。

これは授業の一環で園児たちが制作した作品だ。帰宅時間になっても、小さな子供たちが木によじ登って遊んでいたりする。

■「雨後のたけのこのように」急増

中国の豊かな都市の子供たちは数学、科学、国語の国際的な試験で素晴らしい成績を上げている。その教育制度は海外からすれば垂涎(すいぜん)の的だ。だが、中国国内の受け止め方はまちまちである。

中国の親たちは次のことにいら立ちを感じている。公立の学校はあまりにも競争が激しすぎ、子供たちは試験に追いまくられ、大きなストレスを受けている。カリキュラムは創造力を育むことよりも試験のための詰め込みを重視する。

こうした不満の表れとして、公立校に通う生徒が、海外の大学の入学試験に備える私立校へ恒常的に流出している。

もう一つの傾向は、通常の学校よりも柔軟な教え方をする学校が増えていることだ。英ケンブリッジ大学の研究者、孫一帆氏は進歩的な学校が「雨後のたけのこのように」急増しているという。

そうした学校の一つにウォルドルフ学校がある。2004年に開校した成都ウォルドルフ学校は、中国で初めて「ウォルドルフ」の名を冠した学校だ。同校では幼稚園から高校まで(3歳から18歳まで)約500人が学ぶ。ウォルドルフ学校は現在、中国の70前後の大都市で開校している。

同校が進める自由な教え方は、モンテッソーリ学校(中国国内のモンテッソーリ学校は、幼稚園レベルで少なくとも900校に達しているとされるが、恐らくそれより多い)に似ている。

■在宅教育を試す家庭も

ウォルドルフ学校に子供を通わせる親が「精神科学」に関するシュタイナー理論を十分理解しているとは思えない。農業に対する彼の神秘的なアプローチについてはなおさらだ。これに対して孫氏は、親たちはシュタイナー理論の中に伝統的な中国の哲学に通じるものを感じ取っているという。一部の中国人は中国哲学の方にはるかによく順応している。

もう一つの流行が、中国古来の文化に直接根差した教育である。この種の教育に取り組むのは地方の小規模な学校が多い。弓道、伝統医学、儒教などの科目を教える。

全日制の生徒は一握りしか受け入れない学校があるが、研究会やサマースクールの人気は高い(すべての親が愛情や触れ合いを前面に出す教育を望むわけではない。対極として、昔のように、古典文学や哲学の文献を生徒に暗記させること以外にほとんど何もしない学校もある)。

息が詰まりそうな公教育の抑圧からわが子を解放したいと望むものの、手近な代替手段を見つけられない親の中には、在宅教育を試す者がいる。

中国の研究機関、21世紀教育研究所が今年発表した調査によれば、子供に在宅学習だけをあてがう家庭は6000前後にとどまる。だが、絶対数は少ないものの、毎年3分の1程度の伸びを記録していると、同研究所は推定している。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22625430U7A021C1000000/

>>2以降に続く)