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韓国の文在寅大統領(左)とアメリカのドナルド・トランプ大統領(右)(写真:AFP/アフロ)

韓国が米軍を韓国軍の指揮下に置くことに“失敗”した。

 10月28日に米韓定例安保協議が行われ、アメリカのジェームズ・マティス国防長官と韓国の宋永武国防部長官は「北朝鮮の非核化に向けた外交的な努力」「朝鮮半島への米軍の戦略爆撃機などの定期的な展開を拡大」という方向で合意した。
 しかし、韓国がアメリカに求めていた戦時作戦統制権の即時返還および返還後に韓国軍が米軍を指揮するかたちの新体制構築については、来年までの継続協議という扱いになった。
 以前の記事で言及しているが、国際的な常識に鑑みれば、米軍が韓国軍の指揮下で動く体制を受け入れる可能性は限りなく低かった。また、北朝鮮の脅威が増すなかで、在韓米軍の撤退にも通ずる戦時作戦統制権の返還を求めるという韓国の姿勢は非常識と言わざるを得ない。
 そして、当然の帰結として、アメリカ側にはねつけられてしまったかたちだ。そもそも、米軍が他国の軍隊の指揮下で活動することはアメリカ合衆国憲法に違反する可能性もあり、仮に戦時作戦統制権を返還するとなれば、米韓の軍事同盟に関する「米韓相互防衛条約」を破棄または大きく変更することが必要である。
 また、アメリカが以前から繰り返し述べているように、在韓米軍は韓国を防衛するためだけの戦力ではなく、アジア全体の安全保障を見据えたものであり、南シナ海問題など中国の脅威に備えた戦力でもあるわけだ。そのことを韓国がどのくらい理解しているのかは疑問である。
 アメリカはすでに、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備をめぐって韓国に同様の忠告をしている。また、THAADもそうだが、「米中のどちらにつくか」を迫る“踏み絵”を用意して、アメリカに従う姿勢を明確にさせている。
 しかしながら、朝鮮半島有事が想定されるなかで戦時作戦統制権の返還を求めるという行動に対しては、アメリカが我慢の限界を迎えてもおかしくない。少々厳しい言い方になるが、信頼できない友軍ほど危険なものはない。そのため、どこかのタイミングで「切り捨てたほうがいい」という判断を下されてもおかしくないのである。
 実際、韓国が中国寄りの姿勢を見せていた2015年10月に行われた米韓首脳会談では、アメリカの政府高官から、同盟国としての韓国の必要性を疑問視するような声が上がったこともある。
中国、トランプ訪問で北朝鮮支持を翻意か

 そんななか、ドナルド・トランプ大統領が11月5日からアジア諸国を歴訪する。まずは日本、その後韓国と中国、ベトナム、フィリピンを訪れる。やはり、最大の焦点となるのは北朝鮮問題に対する協議だろう。日本においては、安倍晋三政権が「軍事的オプションも含めたすべての選択肢が俎上にある」とするトランプ政権の方針への支持をあらためて表明する姿勢だ。
 一方、当事者であるはずの韓国は北朝鮮問題の解決に及び腰になっており、前述のように、戦時作戦統制権の返還を求めたりTHAAD配備に慎重な姿勢を見せたりしていた。トランプ大統領と文在寅大統領の間でどのような話し合いがなされるかは注目に値する。

習近平政権の2期目がスタートした中国に対しては、アメリカが新たな言質を引き出すことができるかが焦点になるだろう。かねてトランプ大統領は中国に北朝鮮問題の対応を求めていたが、思ったような成果が上がらないどころか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や核実験の実施まで許してしまった。
 しかしながら、習国家主席にとっても、北朝鮮は目の上のたんこぶであることは間違いない。また、北朝鮮と関係が深いとされる中国人民解放軍の「北部戦区」は習政権の敵対勢力であり、「北部戦区のミサイルの一部は北京を標的としている」ともいわれている。
 そのため、習政権の意思とは無関係に中国軍部の一部が北朝鮮に技術供与を行っている可能性が、以前から取り沙汰されている。習主席としてはアメリカの意思を尊重して「北朝鮮への制裁に協力する」という立場を取ってはいるが、実際に事が進まない裏には、そうした国内事情もあるわけだ。
 そんななかで中国がどのような判断を下すかは、北朝鮮問題を左右するといってもいいだろう。場合によっては、中国が北朝鮮を支持する立場を覆す可能性もあり、アメリカ国内ではそれを期待する声が強いのも事実だ。
(文=渡邉哲也/経済評論家)


Business Journal 2017.10.31
http://biz-journal.jp/2017/10/post_21184.html