https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171213-00000011-sasahi-sci

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。「ヘイトスピーチ抑止」の実態についてデータをもとに解説する。

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 特定の人種や民族への差別をあおる「ヘイトスピーチ」を日本社会はどのように見ているのか。内閣府が12月2日、5年ぶりに公表した「人権擁護に関する世論調査」の結果からその一端が垣間見える。

 今回の調査のポイントは、新たにヘイトスピーチに関する項目が追加されたこと。「ヘイトスピーチを伴うデモ、集会、街宣活動の認知度」については、半数を超える57.4%が「知っている」とした。知った経緯については、複数回答で「テレビやラジオ、新聞などの報道」が92.2%と最も高く、次いで「インターネットで見た」が26.1%。「直接見たり聞いたりした」割合は9.1%とほかに比べると低いが、実際に街角でヘイトデモに遭遇した割合と考えれば、決して無視できる数字ではないだろう。

 問題はヘイトデモに触れた際に、人々がどのように感じたかだ。調査によれば約半数が「日本に対する印象が悪くなると思った」(47.4%)、「不愉快で許せないと思った」(45.5%)と否定的に認識している。

 一方で、「自分には関係ない」(12.1%)とする意見や、「『表現の自由』の範囲内だと思った」(17%)、「ヘイトスピーチをされる側に問題がある」(10.6%)と積極的に容認する意見も少なくなかった。

 デモのような現実世界だけではなく、インターネット上でのヘイトスピーチへの対応も喫緊の課題だ。

「インターネットによる人権侵害」に関する設問では、「他人を誹謗(ひぼう)中傷する情報が掲載されること」(62.9%)、「他人に差別をしようとする気持ちを起こさせたり、それを助長するような情報が掲載されること」(39.6%)が上位に挙げられている。「他人を誹謗中傷する情報」のすべてではないにしても、そのなかにヘイトスピーチは少なからず含まれている。「差別の扇動や助長」を問題視する回答も、2007年調査の25.7%から14ポイントも増加している。

 拡大するヘイトスピーチに歯止めをかけるべく、2016年6月には「ヘイトスピーチ対策法」が施行されたが、国や自治体の努力義務を定めた理念法だったこともあり、当初から実効性の乏しさが指摘されていた。ヘイトデモについては、自治体が主催団体の施設利用を拒否したり、裁判所が禁止の仮処分決定をしたりする動きはあったが、インターネットのツイッターやまとめサイトなどでは、依然としてヘイトスピーチが後を絶たず、その多くが放置されたままだ。

 今回の世論調査は深刻な日本の実態を示しており、客観的な数値で同法のネット上でのヘイトスピーチ抑止効果が乏しいことが明らかになっている。

 2018年は、さまざまなデータを検証し、ツイッターやヤフー、LINEなど、ヘイトの温床となっているプラットフォーム事業者を交え、蔓延(まんえん)するヘイトに歯止めをかける実効策を始める年にしなければいけない。