(朝鮮日報日本語版) 【社説】文大統領は「最低賃金引き上げの肯定的効果」の根拠を示せ

6/2(土) 8:34配信
朝鮮日報日本語版

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「最低賃金引き上げの肯定的効果は90%」と発言したことの波紋が広がっている。理由はこの発言の根拠が明らかにされていないからだ。失業率が17年ぶりに高い水準となり、飲食店従業員やコンビニのアルバイトなど非正規社員や日雇い労働者が急速に減少した現実とあまりに乖離した発言が、他でもない国政の最高責任者の口から出たとなれば、それには明確な根拠が必要になるだろう。もし本当に「肯定的効果が90%」であれば、その政策は今後も力を入れて推し進めていかねばならない。しかしそうなれば最低賃金引き上げの急激な上昇によるマイナスの影響も一層大きくなり、国の経済全体にも大きく影響する。これは非常に由々しき問題だ。しかし「90%の肯定的効果」を示す統計やデータがどこにあるのか、経済学者でさえ首をかしげている。企画財政部(省に相当)や統計庁でさえわからないという

 大統領府の説明も到底理解できるものではない。大統領府の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官は1日の会見で「非公開の統計資料」と説明した。しかし記者団からの質問が続いたため「1−3月期における統計庁の『家計動向資料』をより深く、より具体的に調べた結果だ」と述べた。さらに問題のデータが非公開となっている理由については「私が判断できる領域ではない」として回答を避け「時が来れば、あるいは必要によっては公開できるようになると思う」と述べた。安全保障関連でもない家計や雇用に関するデータを非公開にすべき理由などあるだろうか。「時が来れば公開する」という言葉は「今のこの時間さえ乗り切れば良い」という意味にも聞こえるだろう。

 何らかの非公開資料が本当に存在するのかは実際のところ知りようはないが、統計庁の資料をみればある程度想像はつく。全国8000世帯を対象にしたある調査によると、1−3月期における所得下位20%世帯のうち、家長が労働者ではない世帯の所得が減少していた。その割合は全体の8.2%だ。そのため文大統領が述べた「肯定的効果は90%」はこれについて語った可能性が高い。「統計をみれば労働市場で就業者の賃金は全て増加した」とする発言もこの統計に基づいたものだろう。

 労働者世帯の所得は5つの階層全てで増加した。しかし最低賃金引き上げの影響を受け安いコンビニ、飲食店、卸売業、小売業、宿泊業などの雇用は今年に入って1−3月期だけで7万人も減少した。非正規社員や日雇い労働者に至っては46万人だ。低賃金で労働条件が悪い社会的弱者が最も大きな衝撃を受け、労働市場からはじき出されているのだ。このように最低賃金の急激な引き上げで被害を受けた低賃金労働者を除外し「残りは全て所得が増えた」「最低賃金引き上げの肯定的効果は90%」などと強弁すれば、これは単なる言葉遊びに過ぎない。

 文大統領が語った「90%」と言う言葉を聞き、現在大統領府に正確な情報やデータが報告されているか懸念する声も広がっている。文大統領が事実をねじ曲げた報告を受け、間違った判断を下せば、政策そのものが誤った方向に進んでしまうだろう。これは今の政府だけの問題ではなく、国民全体がその影響を受けてしまうのだ。

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