【ソウル=恩地洋介】

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10日の年頭記者会見で、日本政府への不信をあらわにした。元徴用工への賠償を日本企業に命じる10月末の韓国大法院(最高裁)判決後、同判決の国際法違反を指摘してきた安倍晋三首相や河野太郎外相を念頭に置き「日本の政治指導者が政治的な争点とし、問題を拡散させている」と不快感を示した。

韓国政府やメディアは日本が国際法違反に反発しているという問題の本質を国内ではほとんど伝えず、「選挙を控えた安倍首相が、保守勢力を結集させるために韓日問題を政治利用している」という解釈が広まっている。論点を掛け違えた日韓の不信の連鎖にはとどまる気配がない。

日本政府は9日、1965年の日韓請求権協定に基づく政府間協議を韓国政府に要請したが、文氏は無回答を決め込んだ。韓国政府は一連の判決を巡り「非常に厳しい状況にある」(菅義偉官房長官)と警告する日本の姿勢を理解し切れていない。韓国メディアを含め、個人請求権問題を解決済みとした日韓請求権協定が、戦後の日韓関係の基盤となっていることへの認識は乏しい。

文氏は会見で最近の日韓関係の悪化について「過去の不幸な歴史が原因。日本は謙虚な立場をとらなければならない」と語るなど、歴史問題を前面に打ち出した。日本側の論点とかみ合っていないのは明らかで、日韓外交筋は「文政権は日本を甘く見ているか、日韓関係の本質を理解していない」と指摘する。

海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の艦艇にレーダー照射された問題を含め、きしむ日韓関係の影響が露呈し始めている。元徴用工訴訟を巡っても、日本企業の資産差し押さえや追加訴訟の動きは止まらない。2時間に及んだ文氏の演説と記者会見の大半は、北朝鮮の非核化と南北問題、苦境にある国内経済で占められた。日韓関係そのものが文氏の「関心外」なのかもしれない。


2019/1/10 14:25日本経済新聞 電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39845500Q9A110C1000000/?n_cid=TPRN0003