作家・北原みのり氏の連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は反日感情問題について。

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 K−POP好きの友人が韓国スターの話を職場でしていたら、「そんなに韓国好きだったら、韓国と日本が戦争になったら韓国につくのか?」と言われたという。あまりの頭の悪さに友人は言葉を失いながらも、こう教えてあげた。

「そんなことを選べないのが、戦争なんだよ」

 ここ数年、日韓関係を問うニュースがじわじわと増えている。「慰安婦」問題しかり、徴用工問題しかり、そして年末からの韓国軍によるレーダー照射問題だ。

“日韓関係を問うニュース”と書いたが、正確に言えば「韓国の反日感情を問うニュース」なのかもしれない。“悲しい過去”は全て清算済みなのに、韓国がいつまでも“反日感情”を忘れずに日本を責めてくるんですよ、といった報道姿勢や、「韓国は感情的な国で困ったものですね」「政府も国民の反日感情を利用しているんですよ」と言いたがるコメンテーターは後を絶たない。

 レーダー照射(したかどうか)問題は、“反日感情問題”が十分にあたたまった上で落とされた爆弾のようなもので、日本の反応は、どうしたって過剰になるだろう。現に「嘘に嘘を重ねる、そういった韓国」(山本朋広議員)と一国家を公然と嘘つき呼ばわりしたり、「『協議をする』、これでは弱い」(小野寺五典議員)と協議以上に何を求めているのかわからない恐ろしいことをテレビカメラの前で堂々と言う自民党議員たちが出てきた。こんな無意味な勇ましさ、必要なのか。むしろ、あなたたちの発言が危機ではないか。 

 政治家に私の日常を守ってもらえてない感、長期の安倍政権のもとで深まっている。安心や希望を政治家の言葉から味わえず、何が本当なのかわからない不安や、危機を強いられる日常が、当たり前になってきた。それはトップに立つ安倍さんが、“そういう人”だからなのだろう。

私にとって安倍さんのイメージは長らく「反フェミ」な人だった。“行き過ぎた男女平等”とフェミニズム批判を強烈に繰り広げた2000年代のバックラッシュの先頭に安倍さんはいた。

“行き過ぎた”と主張することで、“ちょうどいい男女平等”があるような錯覚を促し、“行き過ぎた”先には、まるで恐ろしい社会が待っているかのように危機を煽るような反フェミキャンペーンだった。

 日本のフェミニズムは00年代のバックラッシュに相当の打撃を受けた。私ですら、講演に呼ばれれば、館長に発言内容を厳しくチェックされたり、殺害予告などというのも普通にあった。フェミニズムバッシングは、言論封殺という形でやってくることを、00年代に身に染みて味わった。

 危機感を煽り緊張を強いる。それは自由に発言できない空気を作ることだ。私は自由だ。私は私の権利を求める。私は私の語りをやめない。私は私の見ているものを信じる。そういうことが言えなくなるのが、「戦争」状態なのだと思う。今の日本が、やっぱりそういう方向に行こうとしているのだと思う。冷静になれ。

https://dot.asahi.com/wa/2019011700022.html?page=1
AERA 2019.1.19 16:00

北原みのり(1970年(昭和45年)11月24日 - )は、日本の著作家、活動家、運動家。アダルトグッズショップ『ラブピースクラブ』代表
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E5%8E%9F%E3%81%BF%E3%81%AE%E3%82%8A