【ソウル=鈴木壮太郎】韓国ウォンが対ドルで2年5カ月ぶりの安値水準に落ち込んでいる。米中貿易戦争が激化し、中国への貿易依存度が高い韓国経済が影響を受けるとの見方が広がっているためだ。貿易立国の韓国にとって輸出を促すウォン安は景気にプラスとされてきたが、海外生産の拡大など産業構造の変容で通貨安の恩恵は薄れ、むしろ重荷になりつつある。

韓国ウォンは5月31日、1ドル=1190.9ウォン(約110円)で、年初から約6%下落した。2017年1月以来、2年5カ月ぶりの安値水準に落ち込んでいる。

昨夏以来、1ドル=1120〜1130ウォンで安定していたウォンが急落しはじめたのは4月下旬から。同月25日発表の2019年1〜3月期の国内総生産(GDP、速報値)が5四半期ぶりのマイナスに転落。景気の冷え込み懸念が強まった。

5月に入ってからは米中貿易戦争の激化が経済の先行きへの不安感をさらに強めた。韓国にとって中国は輸出全体の27%を占める最大の貿易相手国だ。国際通貨基金(IMF)によると、韓国のスマートフォン部品の輸出額の8割は中国向けで、16年は244億ドル(約2兆6千億円)に達した。貿易戦争の悪影響はSKハイニックスなど韓国の部品産業に及ぶと懸念されている。

こうしたなかで加速する外資マネーの逃避もウォン安に拍車をかけている。外国人投資家がウォン安がさらに進む前に韓国株を売り、手にしたウォンをドルに両替するウォン安の悪循環がやむ兆しはまだ出ていない。外国人投資家の5月の売越額は3兆ウォンを超えた。

韓国経済は輸出が名目GDPの4割強を占め、ウォン安は景気に追い風とされてきた。だが、韓国経済研究院が売上高上位1千社の大企業を対象に実施した調査では、3社に1社が対ドルでウォンが想定より10%安くなっても「営業利益に影響がない」と答えた。各社が見込む営業利益率の押し上げ効果は平均0.5ポイント、輸出拡大効果は平均1ポイントとわずかにとどまった。

同研究院は「韓国の産業構造はグローバル化の進展で企業のサプライチェーンが複雑化し、決済通貨も多様化した」と指摘。「対ドルでのウォン安が直ちに輸出増にはつながらなくなっている」と分析する。

韓国内の人件費高騰で製造業の生産の海外シフトも進んだことに加え、韓国製品の付加価値が高まったことも背景にある。米調査会社IDCによると、サムスン電子のスマートフォンの18年の旗艦機種の平均価格は871ドルと、米アップルを上回った。韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は「昔は安価な製品が多く価格競争力が重要だったが、いまは高級品が中心になったので為替による輸出増大効果は大きくない」と語る。

逆に強まっているのはウォン安の弊害を指摘する声だ。韓国経済研究院の調査ではウォン安の影響として「原材料費の負担増加」と挙げた企業が40%と最も多く「輸出の価格競争力拡大」(11%)といった肯定的な評価を上回った。

ある棒鋼メーカーの幹部はウォン安で半製品のビレット価格が上昇し、収益が悪化すると懸念する。5月第4週の韓国のガソリン平均価格は1リットルあたり1532ウォンと、1月比で13%値上がりした。

韓国政府は過度なウォン安を警戒する。17日に1ドル=1195.7ウォンまでウォン安が進んだことを受け、洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相は20日「金融市場の過度な動きで変動性が拡大する場合、適切な措置を通じて市場安定を維持する」と口先介入した。市場関係者の多くは1200ウォンが当局の防衛線とみている。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45590160S9A600C1FF1000/
日本経済新聞 2019/6/3 0:00

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ソウルのガソリン価格は年初から13%上昇。中心部は1リットル2000ウォンに迫る(ソウル市中心部のガソリンスタンド)

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