【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅大統領が今月末、大阪で中国の習近平国家主席と、ソウルでトランプ米大統領と相次いで会談するのを前に、韓国が“米中の板挟み”状態に直面している。同盟国の米国が安全保障への脅威を名目に中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除を進める中、米中どちらに付くか選択を迫られているからだ。出方次第で経済的打撃をこうむりかねない。

 「サイバーセキュリティーは同盟国の通信を保護する核心的要素だ。今下す決定が今後数十年間の国家安保に影響を及ぼす」

 ハリス駐韓米国大使が5日のソウルの講演で、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムについて語った発言が、経済界に波紋を呼んだ。韓国で整備が進む5G通信網から華為製設備を外せという意味で、企業活動への干渉と受け止められかねない。

米国務省が「信頼できない供給者の設備が含まれれば」、同盟国との情報共有を見直す可能性を韓国メディアに示すなど、徐々に圧迫の度合いを高めている。

 中国側も黙っていない。米メディアによると、中国当局は今月上旬、海外のIT企業関係者を呼び、米国の華為排除に協力すれば、「深刻な結果に直面するだろう」と警告。韓国のサムスン電子やSKハイニックスなど米企業以外には、これまで通り取引すれば、「不利な状況にはならない」と説明した。

 韓国政府は「企業の自主性を尊重する」との立場で、判断を企業に丸投げしている。「米韓の軍事・安保分野への影響は全くない」とも強調してきた。

 スマートフォンの世界市場で首位のサムスンを追う華為排除の動きが広がれば、サムスンに追い風になるとの見方がある。

 一方、韓国企業は昨年、華為に約106億ドル(約1兆1千億円)相当の部品を販売した。韓国が曖昧な態度を続けた揚げ句に米国に同調すれば、2017年の米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD)配備で、中国での韓国ドラマや韓国への団体旅行の制限を招いた“報復”の二の舞いになると懸念する声も多い。

米中貿易摩擦の影響は海外とのモノやサービスなどの取引を表す4月の経常収支が7年ぶりに赤字転落したことに既に表れている。政府は「一時的な現象だ」とするが、メディアは「危険信号だ」と危機感を募らせる。「輸出立国」を牽引してきた半導体輸出の不振が主な要因で、今月1〜10日の半導体輸出は前年同期に比べ30・8%減。国別では、最大の貿易相手国の中国への輸出が26・7%減った。米中貿易摩擦に収まる気配はなく、韓国経済が好転する材料は見つけにくい。

https://www.sankei.com/world/news/190625/wor1906250026-n1.html
産経新聞 2019.6.25 21:52