津田大介芸術監督
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 「慰安婦」問題や昭和
天皇を題材にした作品が抗議、脅迫を受け、中止に追い込まれたあいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」。芸術監督の津田大介さんに企画意図や中止判断、混乱から見えた日本社会の問題点について聞いた。(聞き手=東京報道部・又吉俊充)


 -企画の狙いは。

 「契機は2015年に民間のギャラリーで見た『表現の不自由展』。僕自身ジャーナリストでアートにも興味があり、アートとジャーナリズムが地続きで交差する場所って、こういうことなんだと。アートの検閲的な状況にメディアは同じ危機感を抱えなければいけないと思った。公的な場所での美術表現が制限されているとも感じていた」

 -「不自由展・その後」は公的な場所、トリエンナーレで始まった。

 「民間だったら普通にできる表現がひとたびパブリック・セクター、つまり公共性の高い場所になると批判が集中してできなくなる。ゆえに美術館や行政がある種の忖度(そんたく)や自己検閲して表現ができなくなってしまう状況に対し問題意識があった。不自由展を会期の75日間展示できれば、行政で当たり前に行われている検閲的状況に、美術館が対抗するモデルケースになるんじゃないか。ここは大きな動機だった」

 -今回の事態になる前から公共施設でこうした展示をやることがそもそもの狙いだった。

 「狙いは大村秀章愛知県知事にも、事務局にも伝えた。ただ警備の都合で事前の説明が多方面に十分できなかったこともあり、非常に苛烈な抗議が来てしまった。しかも政治家があおるようなことを言い、収拾がつかなくなり現場が崩壊した。責任を感じていると同時にトリエンナーレの事務局自体が被害者でもある」

 -抗議の電話で事務局がパンクした。中止判断は致し方なかったか。

 「僕は間違ってないと思う。現実的にテロの恐怖がどれだけあるのか。展示の2週間前に京都アニメーションの放火事件があり、電話口で『ガソリンまくぞ』と言われたり、実際にファクスも来たり。『テロに屈するのか、展示を続行しろ』という意見も理解できる。だが現場のストレスが非常に強い状況で、あの時点では続けることができなかった。ある意味、職員と観客の生命が人質に取られた状況だった」

 -人命を守るための判断。

 「その判断が検閲をごまかすためのレトリックだと、一部のアーティストから批判を受けた。そうではないと丁寧に説明していくしかない」

 -脅迫にどう向き合えばいいのか。

 「現在進行中で答えづらいが二つある。一つはテロ予告や脅迫で警察との連携強化。今回は非常に警察の動きが鈍かったと思う。トリエンナーレだけでなく、行政の文化事業の脆弱(ぜいじゃく)性を突いた攻撃で、日本でこういう文化事業をやるときに想定しうるリスクだ。捕まっていない脅迫犯がおり、いまだにテロの脅威にさらされている」

 「もう一つは電話への対応。事務局への抗議の電話は組織的に行われた。促すチラシが確認され、ネットでも同様の動きがあった。(作品への)事実誤認が含まれた中で怒りだけが加速し、抗議する人はその怒りを現場の職員にぶつけてしまう。職員は歴史認識を問われても答えようがない。電話を使わなければいいという意見もあったが、そうすると美術館が入る施設の代表番号に電話して文句を言う。後は協賛企業、県庁にも。対応に慣れた職員も配置していたが、それを超える組織的な抗議が来た。関係各所まで電話されると防ぎようがない」

 -公的資金が投資された事業では、政治的な表現を控えるべきだとの論調が目立った。

 「そういう空気が可視化された。公金を使った文化事業では、首長や政治家、行政の判断で内容が検閲されるのは当然と考える国民が過半数はいると思った。大村知事が『税金、公金を使った文化イベントこそ、内容に口を出してはいけないのではないか』との趣旨の発言をされた。同感だ。愛知県が表現の自由、憲法21条にのっとり、行政は内容に口を出すべきではないとの考え方を貫いた結果、実現した企画展であるのにさまざまなハレーションが起きた」

続く

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