9月5日、韓国紙「朝鮮日報」日本語版に違和感を覚える記事が掲載された。「北朝鮮が咸朴島に日本製レーダー設置、仁川空港・仁川港を探知」との見出しで(略

「なぜ北朝鮮は日本製レーダーを所有しているのか?」、「なぜ韓国政府はそれを把握したのか?」といった疑問が次々に湧いてくる。

 記事が伝える「北朝鮮が日本製レーダーを設置」は本当なのか。国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネル元委員で『北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録』の著書がある古川勝久氏に聞いた。

「この記事には日本製とする証拠が挙げられていません。あくまで一般論ですが、北朝鮮は日本製品を好んで使用します。国連の過去の調査で、北朝鮮人民軍の海軍の艦船には、日本のA社製の漁労用レーダー(海上の他船やブイ、鳥などを捉える)が設置されていたことが確認されています。ただし、設置方法にも誤りがあったようで、果たして軍事的目的にどれほど資するのかは不明ですが。もし日本製レーダーが事実と仮定すれば、自衛隊が使用する軍事用レーダーが北朝鮮に渡るとはおおよそ考え難いので、何らかの民生用レーダーを調達して島に設置したという可能性が考えられます」(古川氏)

A社とは、魚群探知機や船舶レーダーなどの船舶用電子機器を製造する日本のメーカーだ。同社製レーダーは世界中で販売されており、日本から直接北朝鮮に輸出されなくても、中国をはじめ、第三国を経由して北朝鮮が調達する可能性がある。ただ、古川氏によれば、島を軍事要塞化するうえで、民生用レーダーにどれほど有用性があるのかは不明だという。

 では、なぜ韓国政府は設置されたレーダーが日本製であると識別できたのか。レーダー装置とは電波を発射して、その先にある対象物に当たって返ってくる反射波を測定して位置や距離を測るもので、発射する電波の波長から、機器の特定が可能になるといわれている。2018年12月に発生した韓国海軍による自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題では、照射の証拠としてレーダーの波長を公開するかどうかが議論になった。

 しかし、仮にレーダーの波長を捉えたからといって、A社製だと断定することは可能なのか。A社に聞いた。

「弊社が直接的に北朝鮮に販売することはもちろんありませんが、回り回って弊社のレーダーが北朝鮮に入っていく可能性がないとは言えません。ただ、一般的な船舶の航行用レーダーを製造しているメーカーは世界中にあり、弊社のレーダーの波長だけが独特で、波長だけで識別できるということはありません。この朝鮮日報の記事は読みましたが、日本製レーダーと判断した根拠がどこにも書かれていない。証拠があるなら、少なくとも波長の照合データを公表するはずですが、それもない。ですので、弊社としてはコメントしようがありません」(A社広報部)

 似通った波長の電波を利用する民生用レーダーは他にも多々あるので、波長が一致するだけでなく、レーダー装置の写真を撮り、そこにA社のロゴが入っていたというくらいの証拠がなければ、特定はできないという。他の日本メーカーについても同じことが言える。

(中略

 韓国メディアに詳しい韓国人作家の崔碩栄氏はこういう。

「韓国ではチョ・グク氏の法相就任の話題で持ちきりで、保守派からは『咸朴島の軍事要塞化のほうがよほど問題ではないか』といった意見が出ていますが、レーダーが日本製であるという点については特に問題視されておらず、話題にもなっていません。北朝鮮で日本製品が使われているというのはよく聞く話です」

北朝鮮に対する国連制裁で、軍事関連物資の輸出が禁止されたのは2009年から、電子機器や機械類などあらゆる工業製品の輸出が禁止されたのは2017年12月からで、それ以前はパソコンなどの電子機器も万景峰号(2006年まで北朝鮮と日本を往来していた貨客船)などを通じて日本から北朝鮮に入っていった。

 咸朴島に設置されたレーダーが本当に日本製であるかどうかは定かでないが、昔の古い機器が残っていれば、それが使われていたとしても不思議ではない。もちろん、ありとあらゆるケースを想定すれば、韓国から“瀬取り”で日本製レーダーを入手した可能性だって否定はできないのだが。

●取材・文/清水典之(フリーライター)

https://www.news-postseven.com/archives/20190915_1450728.html
NEWSポストセブン 2019.09.15 07:00

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