韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が、「自由主義陣営から、レッドチーム入りする」という本性をあらわにした。ドナルド・トランプ米大統領が先週、マーク・エスパー国防長官や、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長らを訪韓させたが、文大統領は、米国主導で締結した日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する姿勢を崩さなかったのだ。同盟国への裏切りといえる。背景には、習近平国家主席率いる中国に経済的に依存しているだけでなく、韓国の歴史的記憶もあるという。麗澤大学の八木秀次教授が迫った。

米国政府の高官や軍高官が相次いで韓国を訪問している。韓国が破棄を宣言し、23日午前0時に失効が迫ったGSOMIAの破棄再考を促すためだ。14日にはミリー統合参謀本部議長が、15日にはエスパー国防長官がGSOMIA維持を要請した。

 エスパー氏は「GSOMIA失効と日韓の確執で利益を得るのは、中国と北朝鮮だけだ」と述べた。文氏はエスパー氏との会談で「安全保障上、信頼できないという理由で、輸出規制措置(=輸出管理強化)をとった日本とは軍事情報を共有し難い」と従来の立場を繰り返した。

 韓国側は破棄の理由に「日本の輸出規制」を挙げているが、口実に過ぎない。文氏は大統領選の公約で「GSOMIA破棄」を訴えている。

 破棄の目的は、はっきりしている。エスパー氏の言う通り、「中朝を利するため」だ。文氏ら現政権の幹部が影響を受けた考えに「カックン理論」がある。北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席が唱えたものだ。

カックンとは、朝鮮の知識層が被った伝統的な帽子の顎紐(あごひも)のこと。ひもの一方だけを切れば帽子は不安定になる。日米のどちらかを切れば、日米韓の関係は崩れる。まずは日本との間でGSOMIAを失効させれば、米韓関係も危うくなる。次には米韓同盟そのものの解消を考えているはずだ。

 韓国政府は明らかに「レッドチーム」入りを企図し、自由陣営からの離脱「コレグジット」を考えている。

 文政権は2017年10月、中国に対して、(1)米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)の追加配備はしない(2)米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しない(3)日米韓の安保協力を同盟に発展させない、という「三不の誓い」を立てている。

 米国や日本が主導する中国包囲網「自由で開かれたインド太平洋戦略」への参加を渋り、逃げ回っている。これらの背景には中国が軍事的経済的に台頭する中でよみがえってきた韓国の歴史的記憶がある。

 米国と距離を置き、中国にすり寄る「米中二股外交」は、朴槿恵(パク・クネ)前政権から始まっていた。政権の保革に関係ないようだ。そうさせるのは、李氏朝鮮時代の「丙子胡乱(へいしこらん)」の記憶がよみがえっているからだ。

 「丙子胡乱」とは、丙子の年(1636年)の12月に、「後金」から国号を変えたばかりの清帝国が、服属を拒んだ李氏朝鮮に大軍を送って攻撃し、2カ月で降伏させて冊封体制に強引に組み入れた事件をいう。この戦争は、今でも韓国人のトラウマになっている(鈴置高史著『米韓同盟消滅』=新潮新書)

 清は満州族によって建てられた国家で、朝鮮人は「自分たちよりも劣った野蛮人」として見下していた。その満州族に負けたのだ。


当時の王、仁祖(インジョ)は朝鮮王の正服から平民の着る粗末な衣服に着替え、受降壇の最上段に座る清皇帝のホンタイジに向かって最下壇から「三跪九叩頭の礼」(=3回ひざまずいて、9回頭を地面にこすりつけて土下座をする)による臣下の礼を行い、許しを乞わざるを得なかった。

 清が朝鮮に建てさせた「大清皇帝功徳碑」は、今でもソウル市内に残っている。「愚かな朝鮮王は偉大な清皇帝に逆らった。朝鮮王は猛省し、この碑を建てた」との文言が刻まれている。

 『丙子胡乱』と題する歴史小説が2013年に出版された際の各紙の書評の見出しは、「G2時代に丙子胡乱を振り返れ」(東亜日報)、「『沈む明、浮上する清』を知らなかった仁祖、丙子胡乱を呼んだ」(朝鮮日報)というものだった。

 中国が台頭する中で、時代情勢を見誤まるな、「『丙子胡乱』の二の舞になるぞ」という強い恐怖心が民族の記憶として蘇がえっている。これが日米への冷淡な態度となっているのだ。

 だが、この事態をトランプ大統領の米国は看過すまい。中国も属国扱いするだろう。韓国の前には、いばらの道が待ち受けている。

 ■八木秀次(やぎ・ひでつぐ)

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/191119/for1911190002-n1.html
夕刊フジ公式サイト 2019.11.19