日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効は、とりあえず回避された。
韓国が先日、8月の破棄通告の効力を停止すると表明した。半数余りが破棄を支持する世論を押して、継続に踏み切った文在寅大統領の判断は軽くない。

日本政府には、さも当然とするような反応が目立つ。かたくなな態度を改め、進んで隣国との関係修復に努めなければならない。

国や機関同士が提供し合う軍事機密情報の漏えい防止を目的とする協定は、2016年11月に結ばれた。
失効による直接的な影響以上に、日韓の結束の乱れが北東アジアの不安定化を招くという懸念の方が強かった。

米国は「北朝鮮や中国、ロシアを利するだけだ」と危機感をあらわにし、高官らを韓国に派遣して繰り返し協定継続を迫った。
この圧力が、土壇場で文氏の翻意を促したとみられる。

日韓関係は、昨年秋の元徴用工訴訟を機に悪化した。韓国最高裁は日本企業に対し、元徴用工や遺族への賠償を命じた。

安倍晋三政権は、1965年の日韓請求権協定で解決済みだと強く反発。
「安全保障上の懸念」を理由に対韓輸出管理を強化し、優遇対象国からも除外した。文政権はGSOMIA破棄を通告することで、これに報いた。

当面は、この輸出管理を巡る交渉が焦点になる。韓国側は、日本の管理強化に対する世界貿易機関への提訴手続きを中断するとも表明している。

安倍政権は「GSOMIAと輸出管理は別問題だ」との見え透いた建前論を捨て、前向きに協議に応じる必要がある。
両国の経済、安保の関係を平常に戻し、根本の徴用工問題に臨みたい。

「解決済みだ」とする安倍政権の主張に対しては、個人の賠償請求権は消滅していないとの異論も強い。
文政権は、軍事独裁政権時の協定は正常に結ばれたものではないとし、人権擁護の観点から最高裁判決を支持する。

互いの理非をただすより大事なのは、植民地時代に受けた傷を今も抱えている人たちがいるという現実だ。
「韓国が解決策を示すべき」ではなく、その立案に日本政府が積極的に絡み、十分に目を配ってこなかった個々人の痛みを癒やす方策を探るべきだろう。

12月下旬、中国で日中韓首脳会談が開かれる。安倍首相と文大統領の個別会談を実現し、もつれにもつれた関係の糸を解きほぐすきっかけとしてほしい。
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