米中対立の先鋭化と新型コロナウイルスの感染拡大によって、足元の韓国経済が一段と厳しい状況を迎えている。

 今年4月から6月までの韓国のGDPは、前期対比でマイナス3.3%と約22年ぶりの水準に落ち込んだ。

 特に、同国経済の柱である輸出は、前期対比マイナス16.6%の大幅下落となった。

 7月に入っても輸出の情勢は厳しく、韓国の関税庁が発表した7月1日から20日までの輸出は、前年同期比で12.8%減少した。

 品目別にみると、半導体の輸出が前年同期の実績を下回った。

 懸念されるのは、年初来、健闘してきたサムスン電子やSKハイニックスなど半導体産業の不振が懸念される。

 今回の落込みの背景要因の一つとして、米中対立が先鋭化する中で、韓国の最大の輸出先である中国向けの輸出が減少傾向を示していることが懸念される。

 中国の通信機器大手ファーウェイは、ここへ来て台湾の半導体受託製造企業であるTSMCからの在庫確保に急いでいる。

 中国が海外からの半導体調達を増やしている状況下、韓国のサムスン電子などが需要を取り込めていないことは軽視できない。

 韓国では機械や自動車の輸出も減少している。

 目先、韓国の輸出全体が持ち直す展開は想定しづらい。

 中国は、米国の輸出禁止措置を見込んで半導体の自給率向上に取り組んでいる。

 中国にとって、いずれ韓国の重要性は低下するだろう。

 その展開が現実のものとなれば、韓国経済は想定された以上に厳しい状況に陥るだろう。

(中略)

 主な輸出先である中国企業は、韓国企業よりも台湾のTSMCからの輸入を優先しているように見える。

 今年5月、米国は、自国の技術を用いて外国で製造された半導体を中国のファーウェイに輸出することを事実上禁じた。

 ファーウェイ傘下の半導体企業であるハイシリコンの設計・開発力は世界的に高いが、同社は十分な生産能力を持たない。

 中国企業としても、半導体生産は米国の技術に依存している部分が大きい。

 生産能力の弱みを補完するため、ファーウェイとハイシリコンは、輸出禁止が9月に発効するまでに、台湾のTSMCに大量の半導体生産を委託したといわれている。

 TSMCの売り上げに占める中国の比率を見ると、1〜3月期が22%、4〜6月期も21%と落ちていない。

 つまり、9月中旬にTSMCが米国の制裁に基づき出荷を止めるまでの間に、ファーウェイはTSMCから可能な限りのICチップを確保しようと必死だ。

 ファーウェイはTSMC以外の海外企業からの半導体在庫の確保も急いでいる。

 本来、その状況は韓国のサムスン電子などに追い風となり、韓国の半導体輸出は増えてよいはずだ。

 しかし、7月上旬の輸出データはそうなっていない。

 それは、韓国企業が中国の半導体需要をうまく取り込めていないことといえるだろう。

(中略)

 また、中国は時間がかかることは承知の上で最先端のICチップの生産能力強化に注力し、半導体の自給率向上に取り組んでいる。

 中国企業は、目先は台湾に頼って半導体を確保し、その先は自力で対応する計画を着々と歩んでいる。

 サムスン電子は苦境を打開するため、ファウンドリー(半導体の受託製造)事業の強化に取り組み、韓国国内に最先端の5ナノ半導体の生産施設を建設している。

 その一方で、米アリゾナ州に台湾のTSMCは5ナノの生産施設を建設し、さらには2ナノの生産技術まで導入する計画だ。

 TSMCは覇権国の座を争う米中両国への対応を念頭に、生産拠点の国際分散を進めている。

 サムスン電子にそこまでの勢いが感じられないことが気がかりだ。

 4〜6月期、韓国の実質GDP成長率は、事前予想(マイナス2.4%程度)を大きく下回る前期比マイナス3.3%に落ち込んだ。

 それは、想定以上に韓国経済のダイナミズムが失われ、経済が縮小均衡に向かっていることを示す。

 今のところ、サムスン電子は米中の懐に飛び込み両国の需要を取り込む体制を整備できていないようだ。

 同社の半導体事業の競争力がどうなるかによって、今後の韓国経済にはかなりの影響があるだろう。

真壁 昭夫(法政大学大学院教授)

現代ビジネス 7/27(月) 7:01
https://news.yahoo.co.jp/articles/82fefa992ca36003a4625dadf6f74cc16ad4f0e2?page=1