香港から言論の自由や人権が奪われるのではないか、という国際社会の懸念が現実のものとなった。

 香港警察は、中国に批判的な論調の香港紙、蘋果日報などのメディアグループ創始者、黎智英氏を逮捕した。

 2014年の大規模民主化デモ「雨傘運動」を率いた学生団体の元幹部、民主派活動家の周庭氏も逮捕された。

 容疑は、いずれも香港国家安全維持法(国安法)違反である。

 6月末に施行された国安法は、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託による国家安全への危害を処罰する法律だ。ただ、不法行為の定義が曖昧で「香港独立」旗をかばんに入れていただけの男性が逮捕されるなど強権が振りかざされている。

 両氏についても外国勢力と結託して国家の安全に危害を与える罪などを犯した疑いがあるとされるが、具体的にどのような行動を指すのか詳細は明らかになっていない。

 黎氏は、中国国営通信の新華社が「香港を混乱させる反中分子の頭目」と名指しで批判した民主派の大物だ。

 雨傘運動を通じて「民主の女神」と呼ばれた周氏は、日本語でも発信し、民主派の象徴的な存在として香港以外でも広く知られる。

 2人の逮捕は、メディアと若者を象徴する人物を狙い撃ちにしたもので、民主化運動を萎縮させ自主規制させることが真の目的だろう。自由や人権、民主主義に関わる問題である。われわれ国際社会は注視し続ける必要がある。

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 そもそも国安法には多くの懸念がある。

 定義が曖昧にもかかわらず最高刑は終身刑で、法の解釈権は中国側にある。恣意(しい)的な解釈につながりかねない。

 海外にいる外国人の活動を対象としているのも横暴だ。中国側は否定するが、国安法成立前の行為をさかのぼって適用する懸念も拭えない。

 他の香港の法律に触れる場合、国安法が優先されると記されていることにも疑問を感じる。

 さらに制定の過程にも問題がある。香港立法会(議会)を迂回(うかい)する形で、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会がスピード成立させたからだ。

 香港の高度の自治や司法の独立を認める「一国二制度」の大原則は、国安法で骨抜きにされた。

 9月に予定されていた立法会選挙は1年延期が発表された。表向きは新型コロナウイルス感染拡大を理由に挙げているが、民主派の議席の伸長を阻止したい中国の思惑が透けて見える。

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 中国の対応に今、警戒を強めているのは台湾だ。米国の政府高官を迎えた蔡英文総統が、米台の将来的な協力に期待を示したのも、台湾に強硬な中国をけん制したい考えが米側と一致したからなのだろう。

 中国の覇権主義的な行動が結果的に米中対立を激化させている。

 中国は「内政干渉」と反発するが、一国二制度を壊すような統治は国際社会の支持を得られない。

沖縄タイムス 8/12(水) 13:31
https://news.yahoo.co.jp/articles/be1eaa3072cd7cda1435849bf626444830c7fc44