韓国の与党はすでに、国立墓地にある「親日派の墓」を別の場所に移す法案を国会に提案している。与党勢力は国会で3分の2を占めるから、その気になればすぐにでも法案を可決できる。しかし、法案審議に入らないのは、“墓あばき”には、ためらいがあるからだろう。

 その代わりのように、「反日強硬派」が言い始めたのは、「親日派が作詞・作曲した国歌を変えよう」という主張だ。さらに、「国花(ムクゲ)も変えるべきだ」との主張まで現れた。

 「反日強硬派」の迷走は止まりそうにない。

 墓あばき法(=韓国では「破墓法」と呼ぶ)が成立したら、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の墓も当然、その対象になる。朴氏の墓をあばくことになったら、“朴正煕信者”がどんな行動に出るか。血の雨が降りかねない。

 だから、政府も与党執行部も、墓あばき法案には慎重だ。

 その一方、「反日強硬派」の中核にいる民族主義団体の光復会が主張する「親日派がつくった国歌を変えろ」との主張には、丁世均(チョン・セギュン)首相が肯定の姿勢を示した。「作曲した安益泰(アン・イクテ)の親日前歴が確認されれば、国歌変更についても考えなければならない」と国会で答弁したのだ。

 安益泰は、満州国建国10周年を記念して祝賀曲を作曲したとして、すでに民族問題研究所が編纂(へんさん)した『親日人名辞典』に掲載されている。『親日人名辞典』こそ、韓国の公的機関がある人物について、親日派かどうかを判断するバイブルなのだから、首相答弁は「変える」と言ったに等しい。

 作詞した尹致昊(ユン・チホ)は詩人である前に思索家であり、1915年には「日鮮民族の幸福のために、日鮮両民族の同化に対する計画にどこまで参加し、力の及ぶ限り身を惜しまず努力する」と堂々と述べた。そこらの用日派とは違う。気合が入った併合推進派だった。

 だから“現代韓国の常識”からすれば、韓国国歌(=題名は『愛国歌』という)は、「作詞作曲とも親日派による」ということになる。

 『愛国歌』の歌詞には「無窮花、三千里の華麗な山河」という部分がある。無窮花とはムグンファと読み、ムクゲのことだ。

 かつて韓国では、「ムクゲは命強い花で、韓国の象徴だ。そこで日帝はムクゲに触ると、じんましんになると宣伝して、ムクゲを根絶やしにしようとした。しかし、ムクゲは…」などと言われた。

 ところが、「国歌を変えろ」の声に合わすかのように、「国花も変えなければならない」との主張が飛び出してきた。

 主唱者は慶煕(キョンヒ)大学の教授。

 「日章旗の原形は日の丸品種のムクゲであり、旭日旗の原形は宗旦品種のムクゲだ。明治日王は1870年、これらムクゲをそれぞれ形象化した日章旗と旭日旗を国旗と軍旗に制定した」(聯合ニュース・韓国語サイト、2020年7月28日)と、日本人が知らなかった説を語り、ムクゲには韓国の国花たる資格がないと言うのだ。

 韓国では国歌も国花も法定事項ではない。あくまで「慣習としての国歌と国花」だから、変えるのに立法措置は必要ない。

 しかし、国民の大部分が認める新たな国歌をつくり、皆が納得する国花を選定するとなったら、大騒動になること請け合いだ。

■室谷克実(むろたに・かつみ)

ZAKZAK 2020.9.24
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200923/for2009230011-n1.html