9月7日にアップした【「日本学術会議任命見送り問題」と「黒川検事長定年延長問題」に共通する構図】で、「日本学術会議任命見送り問題」について、「黒川検事長定年延長問題」と対比しつつ詳述した。2つの重要な事実が報じられたことで、この問題は、重大な局面を迎えている。

◆菅首相は、推薦者名簿を見ることなく、会員任命を決裁していた

 一つは、この「任命見送り」について、【学術会議問題「会長が会いたいなら会う」 菅首相】と題する記事(朝日)で、

首相が任命を決裁したのは9月28日で、6人はその時点ですでに除外され、99人だったとも説明した。学術会議の推薦者名簿は「見ていない」としている。

と報じられたことだ。

 この問題が表面化した当時、菅首相は、官邸での記者団の質問に対して、立ち止まることもなく「法に基づき適切に対応してきた」と述べ、その後、内閣記者会のインタビューに対して「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の人事も判断した」と説明していた。

 もし、首相が任命を決裁した段階で、6人の学術会議の推薦者が既に除外されていたとすれば、誰がどのような理由で、或いは意図で除外したのかが問題になる。そして、6人の任命見送りの問題表面化直後に、菅首相が任命決裁の際に学術会議の推薦者名簿を見ていなのに「法に基づき適切に対応」と発言したとすると、この「適切」というのは、どういう意味だったのかが重大な問題となる。

 国会閉会中審査でも、政府側は、日本学術会議会員の任命見送りについて、「憲法15条1項の規定に明らかな通り、公務員の選定・罷免権は国民固有の権利」としている。「選定・罷免権を国民に代わって行使するのが内閣の長である内閣総理大臣なので、日本学術会議の会員の任命権も、その選定・罷免権のうちの一つであり、総理大臣には、学術会議の推薦者を任命する義務はなく、一定の裁量がある」という趣旨であろう。

 そうだとすると、菅首相が、学術会議の推薦者名簿を見ることなく、6名の任命見送りを決裁したことは、「任命権を適切に行使した」と言えるのだろうか。そして、任命の可否を判断すべき立場の人物に「適切に判断させた」、つまり、判断を委ねたというのであれば、6人の任命見送りが問題とされた際に、その判断が適切だったか否かを、自ら確認しなければならないのが当然である。それを行うこともなく「適切に対応」と答えたとすれば、総理大臣としての責任は免れない。

 前記記事によれば、菅首相は、「(日本学術会議の)会長がお会いになりたいというのであれば、会わせて頂く」と述べたとのことだが、会長との面談以前に、まず行うべきことは、任命見送りの経過と、それを「適切」と判断した理由について、自ら、公の場で説明することである。

(続く)

郷原信郎
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 10/10(土) 9:50
https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20201010-00202356/