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9月、北京の薬品メーカーの施設で、新型コロナウイルスの実験用ワクチンを点検する職員(ロイター)。甘粛省蘭州で起きたブルセラ症ワクチンの菌漏洩事故により、ワクチン生産工程のずさんさも浮き彫りとなった

 新型コロナウイルスの「震源地」となった中国で、別の病原体による大規模な人災が発生していた。中国甘粛省蘭州市の製薬工場で昨年夏、人獣感染症「ブルセラ症」の動物用ワクチン工場から菌が漏洩(ろうえい)し、周辺住民ら約3600人が感染。妊婦が流産を余儀なくされるなど深刻な被害が出ていたにも関わらず、中国メディアが問題をすっぱ抜いた今年9月まで地方政府は実態を公表していなかった。(北京 西見由章)

 蘭州市当局は10月10日、感染者に対する具体的な補償内容を公表し、ようやく問題解決に向けた姿勢を打ち出した。だが今回の事件では感染症をめぐる中国当局の隠蔽体質だけでなく、ワクチン生産工程のずさんさも浮き彫りに。中国が年内の正式投与開始を目指す新型コロナワクチンにも不安を生じさせる結果となった。

 約10カ月にわたる長期取材によってブルセラ症原因菌漏洩の実態をスクープしたのは、9月14日発行の中国誌「財新週刊」。表紙に加えて18ページの大特集を組んでおり、編集部の意気込みが感じられる。

 本来、中国本土のメディアは「共産党の喉と舌」と呼ばれ、宣伝機関として強い統制を受ける。だが財新は党の実力者、王岐山国家副主席と密接な関係にあるとされ、当局側の不正や失態に鋭く切り込む数少ないメディアの一つだ。

 その財新によると、地方当局が菌漏洩問題について最初に公表したのは昨年12月26日。同7〜8月、国有企業傘下の「中牧蘭州生物薬工場」で使用期限切れの消毒剤を使用したため、ブルセラ症の原因菌が減菌されないまま空気に混じって排出され、工場の風下にあった蘭州獣医研究所の職員や学生ら203人の感染が血液の抗体検査によって判明したとの内容だ。

 ただその第一報は、深刻な事態であることを極力否定するという点において、ほぼ同時期に湖北省武漢市当局が発表した新型コロナ感染をめぐる内容と酷似している。

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産経新聞 2020.10.13
https://special.sankei.com/a/international/article/20201013/0001.html