海外特派員の仕事の一つは担当する国のトップの発言を読み解くことだ。韓国大統領府は日々、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の会議や行事での発言をメディア向けに微に入り細をうがち公表している。

 最近、興味深い韓国紙の記事に出合った。菅義偉(すが・よしひで)首相が9月の就任後、13日間に官邸で記者会見したり、記者団のぶら下がり取材に応じたりしたのは少なくとも6回。文氏が就任から3年4カ月、1238日間で記者会見室で記者団と会った6回と同じというのだ。

 文氏は朴槿恵(パク・クネ)前大統領のコミュニケーション不足を「不通」と批判し、主要案件を直接メディアにブリーフィングすると説明していた。意思疎通の不足を指摘されると、交流サイトなどを通じて国民に直接メッセージを伝える機会を増やしてきたと応じた。

 記者会見はネットの一方的発信と違い、答えづらい質問も飛ぶ。ソウル中心部のデモを、新型コロナウイルスの防疫を名目に禁じたことからも、耳障りな意見を遠ざけようとしているのかと勘繰ってしまう。

 国のトップへ記者が質問するのが当然の国から来た記者の一人として「なぜ記者会見を避けるのか」と大統領に直接尋ねたいところだが、外国メディアも参加する記者会見はさらに限られ、宝くじに当たるほどの幸運を期待するほかないかもしれない。(桜井紀雄)

産経新聞 2020.10.14 07:00
https://www.sankei.com/world/news/201014/wor2010140005-n1.html